「泡の芸術」とも称されるシャンパーニュ。なだらかな丘陵が広がるフランス・シャンパーニュ地方で作られ、様々な条件を満たしたスパークリング・ワインだけが「シャンパーニュ」と名乗ることが許されています。今回は、お祝いの場にも欠かせないこのシャンパーニュと、それを生み出すシャンパーニュ地方についてご案内します。
繊細な味わいを育むテロワール
パリから東へ約140km、フランス北東部に位置するシャンパーニュ地方。気候は冷涼で、約7000年前には海だったことから、土壌は海洋生物の化石が混じる石灰質です。このような環境で育まれるブドウは酸味とミネラル感に富み、シャンパーニュ特有の繊細な味わいの土台となっています。
丘陵に広がるブドウ畑、ワイン造りの生産や流通の伝統を守るメゾン、そして地下に眠る石造りのカーヴ(ワイン貯蔵庫)が一体となった風景と技術。これらは「シャンパーニュの丘陵、メゾンとカーヴ」としてユネスコ世界文化遺産に登録されています。自然と人の営みが織りなすこの土地の魅力は、細やかな泡にそっと映し出されています。
フランス王とシャンパーニュ
17世紀の頃まで、泡のあるワインは失敗作とされていました。シャンパーニュ地方の修道士ドン・ピエール・ペリニョンはそれを改良することに成功し、デリケートで美しい発泡のあるワインを作り出しました。
シャンパーニュ地方の主要都市ランスにあるノートルダム大聖堂は、歴代フランス王の戴冠式が行われてきた場所です。中世から王室と深い関わりを持っていたことで、祝祭の場ではこの地方のシャンパーニュが欠かせない存在となりました。
シャンパーニュワインの特徴
シャンパーニュ地方のワインは、主にピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエの3つのブドウで作られます。これらを組み合わせることで、複雑でバランスの取れた味わいが生まれます。
泡は「瓶内二次発酵」という特別な製法によるものです。樽やタンクで発酵させたワインを1本1本瓶に詰めて再び発酵させることで、自然にきめ細かな泡が生み出されます。
また、瓶の中で最低15ヶ月以上熟成させることが定められており、これによって香りと味わいに深みが加わります。
辛口からやや甘口までスタイルは多彩。ロゼやヴィンテージ、ブラン・ド・ノワール(黒ぶどうから作られる無色のワイン)など、個性豊かな泡が揃います。
シャンパーニュとのペアリング
シャンパーニュはお祝い事の乾杯の場だけではなく、料理との相性も抜群です。
豚の腸で作られるソーセージ、アンドゥイエット(andouillette)は、硬質なミネラル感のある辛口のシャンパーニュと好相性です。
ピンク色のビスケット、ビスキュイ・ローズ・ド・ランス(biscuit rose de Reims) は、やや甘口のシャンパーニュに浸して楽しむのがこの地域の伝統です。
シャンパーニュ地方のおすすめポイント
シャンパーニュ街道(Avenue de Champagne)
エペルネの市街地にあるこの街道には、モエ・エ・シャンドン(MOËT & CHANDON)やペリエ・ジュエ(Perrier-Jouët)など、世界的に有名なメゾンがずらりと並んでいます。地下に広がる広大なカーヴを見学するツアーに参加すれば、伝統的なシャンパーニュ造りの現場をより間近に感じることができるでしょう。
プレソリア(Pressoria)
エペルネに来たら、シャンパーニュを五感で学べる体験施設「プレソリア」に足を運んで見るのもおすすめです。映像や音響を駆使した展示や、実際に香りを嗅ぐといった体験を通して、ブドウの栽培やワインの発酵過程について楽しく知ることができます。
ワインイベント「Les Habits de Lumière(光の衣装)」
毎年12月中旬にエペルネで開催されるイベントです。各メゾンのカーヴなどが特別に公開されるほか、夜にはシャンパーニュ街道がライトアップされます。このイベント限定の特別なシャンパーニュが提供されることもあり、クリスマスシーズンの華やかな雰囲気の中で格別な一杯を味わえます。
10月第4金曜日は「シャンパーニュ・デイ」
シャンパーニュ地方に行けなくても、オンラインでシャンパーニュを楽しめるイベントがあります。それは10月第4金曜日に行われる「シャンパーニュ・デイ」で、シャンパーニュを楽しむ様子をSNSに投稿するというもの。
お気に入りのシャンパーニュを用意し、SNSにハッシュタグ#champagnedayをつけ、写真や動画を世界のシャンパーニュ愛好家とシェアしましょう。
おわりに
シャンパーニュの泡は祝福の瞬間を彩るだけでなく、何世紀にもわたる職人の知恵と自然の恵みが凝縮されています。丘陵に広がるブドウ畑、石灰岩の地下カーヴ、そして人々の情熱が織りなすこの地方の魅力を、ぜひ一杯のシャンパーニュで味わってみてください。
執筆 Quiyo(キヨ)