パリのウクライナ難民避難所、日本人建築家坂茂氏「紙筒の間仕切り」で支援

2022.03.25

パリのウクライナ難民避難所、坂茂氏の「紙筒の間仕切り」3月25日(金)、ウクライナで戦火を逃れパリに到着したウクライナ難民の避難所に、フランスのメス(Metz)市にあるポンピドゥセンター・メス(Centre-Pompidou Metz)やパリ郊外のセーヌ・ミュージカル(Seine musicale)などの設計で知られる日本人建築家、坂茂(ばん しげる)さんが開発した紙筒の間仕切りが利用されています。

 

ウクライナ難民、パリ東駅に続々と到着

パリ東駅(Gare de l’Est)に近いマリー・パラディ(Marie Paradis)体育館とリヨン駅(Gare de Lyon)近くのヴィクトル・ユン=ぺレーズ(Victor Young Perez)体育館に、戦場となった母国の戦火を逃れて避難してきたウクライナ難民受け入れのための仮設避難所が作られ、3月19日より受け入れが開始しています。

パリ10区と12区に位置するこの2つの体育館は、ウクライナからまず東駅に到着し、その後リヨン駅から最終目的地へ移動する難民のための短期宿泊施設として開設されました。

それぞれ80人と60人の受け入れが可能なこれらの施設に到着する難民のほとんどが女性と子供たちです。

パリ市の社会福祉担当助役のレア・フィロシュ(Léa Filoche)氏は、「仮設避難所の開設は10区と12区が主導し、パリの地理に不慣れな難民たちが道に迷わず、駅から駅への移動がスムーズに行われるように配慮した」と述べています。

確かに最近、リヨン駅行きの地下鉄の中で、赤十字のスタッフに連れられたウクライナ人の女性や子供たちを見かけるようになりました。

 

坂氏「避難所開設を聞きつけ」パリ市に支援申し出

この2つの避難所の開設を聞きつけた建築家の坂茂氏は、即座にパリ市に支援を申し出ています。

2003年にポンピドゥセンター・メスのコンペを勝ちとったのを機に、2004年にはパリに事務所を設立し、2014年に建築分野で栄誉あるプリツカー賞に輝いた坂氏は、被災者や難民のための仮設住宅や避難所など「急を要する建築」として世界的に知られています。

1994年のルワンダ内戦時にボール紙の紙筒でできた骨組みを使ったシェルターを開発した氏は、1995年の阪神大震災では紙のログハウスを制作し、その後も数多くの被災者のために避難所の建築を提案したり制作するといった活動を行なっています。

坂氏はまた、国連の人権高高等弁務官事務所の難民支援アドバイザーも務め、今回のウクライナ戦争ではパリだけでなく、3月上旬からすでにポーランドを始めウクライナのリヴィヴ、今後スロヴァキアなど、必要とされる避難場所への支援を行っています。

 

パリの体育館に「紙筒の間仕切り」でプライバシー確保

マリー・パラディ体育館では一人用、2人用、3人用とベッド数に合わせた大きさに作られた紙筒の骨組み42ユニットが組み立てられ、ワインレッドのカーテンで囲われています。

「プライバシーは人間にとって根本的に必要」という坂氏は、ウクライナ国境付近にあるポーランドの都市で320ユニットの設置に携わった際「泣きじゃくって到着した女性が、囲いのあるスペースに入ったところおとなしくなった」のを目の当たりにしたと語っています。

 

東日本大震災で、被災者の「プライバシー確保」の重要性

軽くて持ち運びが便利なうえに、各所で工夫を凝らして作成され見た目もエレガントな「紙筒の骨組み」は、坂氏が東日本大震災の時に体育館などで大勢の人と過ごすことで「被災者に多大なるストレス」が生じることに着眼し、避難所生活での「プライバシー確保の重要性」を感じて開発し完成させたものです。

坂氏、TEDで自身の支援活動について講演(英語):

今回この間仕切りがパリ2箇所の避難所で設置されています。

 

「建築は生活環境をより良くするもの」

組み立ては、ポーランドでの設置と同様、建築学校(パリ近郊ヴェルサイユの学校)の学生たちによってわずか1日で行われました。

組み立ての指揮をとった坂茂パリ事務所のデザイナー、マーク・フェラン(Marc Ferrand)氏は、「骨組みは置いただけで安定する仕組みにはなっているが、子供がボール遊びをしても倒れないように念のため床にテープで固定した」と話しています。

フェラン氏によると、必要な資材は全て坂茂事務所が支援を依頼した企業により寄付されたものです。

平均3泊、避難所でひとときの安らぎ

避難所の運営を行う非営利団体オーロラ(Aurore )によると、避難民は平均3泊ほど滞在しますが、夜に到着し一泊しただけで翌朝には最終目的地へ出発する人もいます。

彼らはイギリス、カナダ、スペイン、ポルトガルなどウクライナ人コミュニティーが大きい国へと旅立って行きます。

避難所での短い滞在中、睡眠をとったり食事をしたり子供を遊ばせたりし、ウクライナ語やロシア語のできるスタッフが書類作成の手伝いや通訳を行っています。

「建築は生活環境をより良くするもの」と語る坂氏の言葉は、避難民の仮住まいにこそより活かされているようです。

執筆:マダム・カトウ

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