フランス 「バカロレア」は簡単になったのか?三世代に聞く

2025.06.17

2025年6月17日(火)、昨日16日の哲学を皮切りに、19日まで高校卒業資格「バカロレア」(baccalauréat)の筆記試験が行われます。近年、合格率が80%を超え「簡単になった」と言われていますが、果たして実際はどうなのでしょうか?バカロレアを受験した三世代にフランスのメディアがインタビューしています。

 

受験者72万人、最年少は記録更新の8歳、最年長は78歳

今年の受験者数は724,633人です。うち最年少は8歳の小学生で、昨年の9歳から記録を更新しています。ちなみ昨年の最年少は不合格でした。

今週の筆記試験が終わると、6月23日から7月2日まで口頭試問が行われます。

 

2021年のバカロレア改革で「だれもがバカロレア」

改革前は10以上あったバカロレアの受験科目は現在4科目と半減し、合格率も毎年8割以上で推移しています。

フランス南東部、ヴォクリューズ(Vaucluse)県に住む17歳のキアラ(Chiara)さんは今年バック(bac : バカロレアの略称)を受験します。

祖母で71歳のミレイユ(Mireille)さんは「もう大昔の事だけど、大変なプレッシャーだった」と当時を振り返りました。

70年代のバカロレア資格、今の大卒に匹敵

1973年、ミレイユさんが受験したころのフランスでは、高校卒業時にバカロレア資格を取った人はわずか20%でした。彼女の父親は農業に従事した後商売をやっていましたが、もちろんバカロレアは持っていませんでした。母親の方も全く学業に従事していませんでした。そのせいもあってか、ミレイユさんにかけられた期待は相当大きかったようです。

当時、バカロレアを持っていることは、「今の大卒ぐらいの価値があった」とミレイユさんは語っています。

90年代、就職は大卒重視、バカロレア取得が「必須」

21年後の1994年、ミレイユさんの娘でキアラさんの母、エマ(Emma)さん(50歳)が受験、今でも「口頭試問の際に、不安な気持ちで順番待ちをした廊下を思い出す」と、当時の心境を語りました。

時代は変わり、エマさんの同世代の50%がバカロレアを取得しています。

就職には大卒が重宝される時代になり、大学入学資格であるバカロレアの取得は必要不可欠でした。

バカロレア制度改革で「一発勝負」から年間の成績重視に

エマさんの娘、キアラさんによると、彼女の同世代でバカロレアを持っているのは「普通のこと」だと言います。

その理由は、2021年にバカロレア取得のための評価制度が変更されたことにあります。

それまでは年に一度の試験結果のみで合否が決まっていましたが、制度変更により、年間を通じた学業成績(通年評価:contrôle continu)が重視される仕組みへと変わりました。

キアラさんの場合、この通年評価で平均を上回る成績を収めているため、たとえ試験で専攻科目の一つが合格点に達しなかったとしても、バカロレア資格を取得できることがわかっています。したがって、彼女にとってバカロレア試験は、あくまで「形式的なもの」に近いと言えるのです。

 

バカロレア取ったはいいが、進学、就職など、進路選びはより複雑に

おばあちゃんの世代は、バカロレアは無いのが当たり前、6月に試験が終わり9月に就職しようと思えば職につけた時代でした。

バカロレアを持っていると「うちの仕事には学歴が高すぎる」と言われることもあったようです。

お母さんの世代は、高学歴が優遇され、「バカロレアを持っています」だけでは就職できず、秘書になるにもバカロレア後2年間通う、職業訓練校(BTS)卒業資格を求められていました。

キアラさんの世代は、バカロレア取得こそ以前より簡単になりましたが、大学入学となると話は違ってきます。

バカロレアさえあれば「すべてに門戸が開かれた」、お母さん世代

エマさんは、バカロレア資格をもっていると「すべての進路に門戸が開かれた感じだった」、と当時を振り返っています。大学進学もよし、職業訓練校を選ぶこともできました。

一方、普段の成績に関係なく、バカロレア試験さえ合格すれば原則として大学進学が認められていたため、大都市や人気学部に志願者が集中し、定員オーバーや授業についていけない学生の中退が問題になっていました。

高2で進路決定、文系理系の変更は「無理」

定員オーバーの際の選抜に「抽選」方式が取られていたことが問題視され、2018年に「パルクールスップ」(Parcoursup)と呼ばれる、「大学進学希望者向けオンライン出願システム」が導入されました。

これにより、志願者の希望・成績・志望動機をもとに、より透明で計画的なマッチングを行うことで、無秩序な入学を防ぎ、定員オーバーの問題を緩和することを狙っているわけです。

つまり、キアラさんはお母さんの世代のように、自分の希望する大学に入学できるとは限らないわけです。

大学進学に「大きなプレッシャー」

希望大学の「コミュニケーション学部」に合格が決まっているキアラさんのクラスには、いまだにどこの大学からも受け入れ通知がきていない同級生が何人もおり、これについて彼女は受験とはちがった「プレッシャーがある」とコメントしています。

さらに、新制度では高校2年で「専門科目」を選択しなくてはなりませんが、文系・理系などここで選んだ科目が大学入学選抜に直結するため、15歳という若さで「将来の進路」を決めることが要求され、しかも進路変更が困難になっています。

 

バカロレア、フランス初の試験は19世紀初頭

バカロレアは1808年3月17日に政令が発せられ、1809年に初めて試験が行われました。当時、筆記試験はなく口頭試問のみでした。

今年の合格発表は7月4日、ほとんどの人が合格すると思われますが、それでも学校に張り出された合格発表を前に、学生たちは一喜一憂することになります。

執筆:マダム・カトウ

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