【子音の同化①】フランス語でFacebookを「フェイズブック」と発音する、深い理由

2019.08.14

発音 男の子

突然ですが、フランス語で Facebook をどう発音するかご存知でしょうか?

誰もが知っているこのSNS、英語でも日本語でも「フェイスブック」と発音します。けれどフランス人と喋っていると、「フェイズブック」と発音しているように聞こえます。いえ、実際に「ズ」[z] と発音しているのです。Facebook は英語由来の単語ですが、こうなる理由はフランス語の発音のルールから説明できます。

あまり知られていないかもしれませんが、フランス語には子音の「同化 (assimilation)」と呼ばれる現象が存在します。Facebook が [fɛjzbuk] と発音されるのはこの「同化」が原因。みなさんが不思議に思っている他の多くの発音変化も、これで説明できることが多いのです。では早速みてみましょう。

 

無声音と有声音がカギ

今度は dix-neuf heures を発音してみてください。

[dizvœr] となりますよね。初級の段階で自然に覚えてしまい、あまり疑問に思ったことはないかもしれませんが、それぞれ単体では dix [dis]、neuf [f]。どうして x → [z]、f → [v]と発音されるのでしょうか?

これも「同化」現象で理解できますが、このときに欠かせないのが有声音無声音の区別です。これは簡単に言ってしまえば日本語の「濁るか濁らないか」と同じです。ただ「ぱ行」は無声音ですので気をつけてください。

より正確に言うと、有声音はその音を発するときに声帯が震えます。ためしに喉元に手をあてて、[z]や[v]を発音してみてください。喉仏のあたりが震動するのがわかると思います。これは声帯が震えているからで、人はこうすることで声を出しています。そして [z]や[v]などは声帯を震わせないと出せない音なので、「有声子音」と呼ばれます。また、母音はすべて有声音です。

対して無声音は、声帯を震わせなくても出せる音です。 [s] や [f] の音を、また喉に手をあてながら軽く発音してみてください。声帯は動かないまま、ただ空気が通り過ぎてゆく様子がわかると思います。声帯が震えないということは声が出ていないということなので、[s] や [f] などの音を「無声子音」と呼びます。

 

はさまれると変わる理由

話を dix-neuf heures に戻すと、仮にそれぞれを単独での発音の通りつなげて発音すると [disfœr] となります。このとき [s] と [f] は無声音ですが、その前後に着目すると、[isn]、[øfœ] となっているのがわかります。前述の通り母音は有声音で、また、[s] の後の [n] も「鼻音」と呼ばれる有声音です。つまり [s] も [f] も、有声音にはさまれることになるのです。

よく知られている通り、フランス語にはアクセントがありません。抑揚がなく、平坦に音が並べられるフランス語では極力、有声/無声の切り替えを最小限にしようという力学がはたらきます。これは声帯の過度なオン/オフを控えるという省エネ的な発想です。

よって、有声のペアを持つ無声音([s], [ʃ], [f], [p], [t], [k])が有声音(母音または有声子音)にはさまれた場合、つづりに反して有声音([z], [ʒ], [v], [b], [d], [g])で発音されます。両隣の有声音に“合わせる”ので、この現象を「同化」と呼ぶのです。

 

まるでオセロのように…

アルファべ s は「母音にはさまれると [z] と濁って発音される」という規則がありましたよね。これも「同化」の一種です。たとえば saison [sɛzɔ̃]という単語は、一つ目の s はそのまま無声音ですが、真ん中の s は両隣が母音(有声音)なので、同化して[z]と濁ります。

これをわかりやすくオセロにたとえると、以下のようになります。

[s ɛ s ɔ̃ ] 〇●〇● → [s ɛ z ɔ̃ ] 〇●●●

もともと白(無声音)だった三つ目の石が、両隣の黒い石によってひっくり返され黒(有声音)になり、そのおかげでせわしなく白黒(声帯のスイッチ)を切り替えなくて済むのですね。

Facebook [fɛjzbuk]では以下のようになります。

[f ɛ j s b u k] 〇●●〇●●〇 → [f ɛ j z b u k] 〇●●●●●〇

こうして見てみると、[s] が [z] と濁って発音されるのは「両側が母音のとき」だけではなく、有声子音も含め「両側が有声音のとき」と覚えた方がよさそうですね。

 

次回は「absent をアプサンと発音する理由」です

ここまで、「無声音から有声音への同化」を見てきました。しかしこれには逆バージョン「有声音から無声音への同化」もあり、頻度としてはそちらの方がしょっちゅう起こります。これについては後半「子音の同化(2)」でお話ししたいと思うので、お楽しみに!

執筆 アンサンブル講師 Hibiki

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