第二次世界大戦後、建物の修復や体制の見直しがされ人々は新しい時代への一歩を踏み出しました。復興に向けて奮起する世の中の動きは、香りの世界にも影響を与えました。今回は当時の時代背景と共に、1940年代に誕生した香水をご紹介します。
新しい時代の幕開け
恐慌や戦争による時代の遅れを取り戻すかのように、新しい香水が次々と発表されました。あらためて香りは魅力的なアクセサリーであると認識され、若い女性達が香水を身に纏うようになりました。
そして、モード界と香りの世界はさらに結び付きを強め、ハリウッドスターが持つ強い個性とグラマラスなイメージに刺激され創作活動を発展させていきます。
ディオールが女性に求めた新たなスタイル
ファッションデザイナーであるクリスチャン ディオール(Christian Dior)は、戦前シャネルが生んだ快適便利なスタイルに異議を唱えました。もっと女性らしく華やかで、グラマーであることを求めたディオールはその思いを作品に仕上げました。
肩に丸みを与え胸を強調し、腰はぐっと細くて柔らかな膝丈のスカートという特徴的なシルエットはニュールックと(New Look)と名付けられ大流行を見せました。そしてニュールックが生まれた1947年、ディオールは記念すべき第一号の香水を発表しました。
ディオール第一号の香水
ディオール第一号となる香水の会議に、お気に入りの妹カトリーヌ(Catherine)が思いがけず登場しました。すると、当時ディオールのミューズであったブリカー(Madame Bricard)はこう声を上げました。
「あら!ミスディオールがいらした!(Tiens voilà Miss Dior !)」というブリカーの発言によって、ディオール初の香水が命名された瞬間でもありました。そう、今も愛されている香水”ミスディオール(Miss Dior)”の誕生です。
ミスディオールはどんな香り?
ミスディオールの香りは、ディオールが子供時代を過ごした”花咲き風そよぐ庭”をイメージして作られました。清々しいジャスミンに、香りの都グラースのバラを当時ブームになったシプレノート※に合わせています。ラストノートにはパチュリ※を加えることでより艶やかに個性を増します。
そしてミスディオールの大きな鍵となるのがセリ科のガルバナム(樹脂を使用する)。青々としたグリーン調の香りがフローラルシプレを引き締め、新たな道を生きる女性達の心を掴みました。
爽やかな草原をイメージするグリーンノート※は自由や自然回帰が求められる時代に流行をみせます。まさに、当時の人々が求めていた香りだったのです。
※シプレノート⇒柑橘系とオークモスという苔の香りの爽やかな香調
※パチュリ⇒シソ科の植物。湿り気を感じそうな、なんとも奥深い香りがヨーロッパで愛されています。
※グリーンノート⇒新緑や植物の葉・茎の香り
まとめ
今回は「新しい時代を作ろう!」と人々が奮起し、女性のあるべき姿と新たな考えを探し求めた戦後の1940年代をご紹介しました。
ディオールの「愛の香りがするフレグランスを作ってくれ。」という想いを忠実に再現している”ミスディオール”。それは自由を象徴する春を美しく表現し、 人々の期待に応える”愛の香り”そのものでした。誕生から70年経た現在も”ミスディオールオリジナル”と名乗り、その香りは変わらず優雅であり続けています。
執筆者 ふみ