この原稿を書いている今日2015年12月9日は、最初のLa journée de la laïcité(”非宗教性”の日)でした。
無宗教とは異なる「非宗教」
このコラムでも何度か触れたフランスの「非宗教性(laïcité)」。「非宗教」とはつまり、国はどの宗教の前にも公平で中立の立場をとる、というものです。
日本語だと一文字だけの違いで「無宗教」という言葉がありますが、こちらは「積極的に宗教を放棄する立場」で、「非宗教」とは何の関係もないことに注意したいところです。
「無宗教」と異なり、「非宗教」は宗教を排除するのが目的ではなく、宗教が政治に影響を及ぼしたり、個人の言論・意見の自由を妨げることがないように定められたものです。
「自由」「平等」の基礎
歴史を振り返ってみると、フランスの公立学校がlaïque(非宗教)とされたのは1882年で、国が「政教分離」の法律を公布するより23年も前のことでした。長い議論の末、この法律が賛成341票・反対233票で可決され成立したのは、1905年12月9日のことです。
この法律によりフランス共和国は「すべての信仰の自由を認め保障するが、同時にいかなる宗教も優先せず、補助金も与えない」と宣言しています。
みなさんご存知、フランス共和国のモットーは「Liberté, Egalité, Fraternité(自由、平等、友愛)」。そのうち「自由」も「平等」も、この「非宗教性」が保障されなくては成り立ちません。その重要性から、1946年には「laïcité(非宗教性)」についての項目が憲法第一条に加えられたくらいです。
教育機関も非宗教
また2013年9月9日には「Charte de la laïcité à l’école(教育機関での非宗教性に関する文書)」なるものが、政府によって制作公表されました。公立学校の入り口には必ず掲げてあるはずですので、フランスにお住まいの方は見覚えがあるかもしれません。15条の文章で成っていて、中学生にもなれば理解できる簡明な言葉で書かれています。(こちらのサイトで読めます)
テロ事件で再認識
今日、第一回非宗教性の日に、マニュエル・ヴァルス首相がtwitterに投稿した言葉は次のようなものでした。
「非宗教性は、私たちに共有の固く、譲ることのできない礎だ。これがあるからこそ他人との違いを受け入れ、平静で結束することが可能となるのだ」
複数のテロ事件を経験した今、「laïcité(非宗教性)」の重要性は、更に強く認識されています。そういう意味でもこの第一回非宗教性の日は大きな意義を持つことでしょう。
今年1月テロ事件のあったユダヤ食材店
まだまだ改革や整備は必要
ただなにごとも白と黒で分けられないように「laïcité(非宗教性)」にも、明解そうで、そうでない部分があります。前回書いたクレッシュ設置の是非などもそのひとつです。
また、政教分離の法律が成立した1905年当時、フランスの領土ではなかったアルザス―モゼル地方では、政教分離の法律ではなく、いまだに1801年に調印された政教条約制度を取っています。そのため上で説明したフランスの他の地域と異なり、宗教施設は国の予算で整備され、カトリック司祭もユダヤ教指導者もプロテスタントの牧師も、公務員の扱いを受けています。
このあたり、まだまだフランスも改革や整備が必要なようですね。
執筆 ゆき