体に不調を感じたらホームドクターへ、こころの状態に違和感を覚えたら?
日々の生活でストレスを感じた時、気分転換をしても気持ちが晴れない…そんな時はフランス人はメンタル専門家の力をかります。今回は、フランスのメンタルヘルスの取り組みについてレポートをします。
こころの不調が表れたら?
フランス生活の中で、何度か耳にした「プスィに行く」(Je vais chez le psy.)という表現。「プスィとは何だろう?」と疑問に思い調べてみると、それは精神科医や心理士など、精神医療にに関わる専門家たちを呼ぶ略称でした。
フランスでは、日常会話では「プスィ」と略語を使いますが大まかに2つのカウンセリングのことを指しています。
1.精神科医:ル・プスィキアトル(le psychiatre )
専門医として診断の結果、患者に薬を処方できます。診察料は、フランスの公的医療保険で還付対象。
2.心理士、心理学者:ル・プスィコログ(le psychologue)
応用心理学の専門家、学校や職場などの心理カウンセラー。大学で心理学のディプロムを取得しており、医者ではないので薬の処方はしません。幼児、青少年、労働など専門分野があります。基本的には、カウンセリング料は公的医療保険の対象ではありません。
皮膚に問題があれば皮膚科へ、目に不調があれば眼科へ、心に不安を感じたらメンタル専門家へ、がフランス流。日常会話にもでてくることからメンタルヘルスが身近な印象を受けます。
個人的体験 皮膚科の先生にカウンセリングを勧められる
フランスで暮らし始めて5年が過ぎたころ、私は一時期ひどい湿疹に悩まされていました。評判の良い皮膚科の先生を友人から紹介をしてもらい、3か月後に診察をしてもらうことになりました。
皮膚科の先生は私の皮膚の状況を見ながら、かなり細かくプライベートな質問をしてきました。
そして「あなた、プスィに行くことをお勧めするわ。こころとか身体はつながっているからプロの力を借りて自分で解決するのよ!皮膚のことは、私が治療のサポートをするから心配しなくていいわよ」と言って、その場で何人かの心理士の電話番号を教えてくれました。
その時、「そこまでする必要はあるのかしら?私は皮膚のことできたのに。プスィ?」と考えましたが、どんなものか興味があったこと、そしてとにかく治りたい気持ちが強かったので、その中の1人にコンタクトをとることに決めました。
カウンセリングで気づいたこと

フランスの心理士は自分のカウンセリングルームで患者を迎えます。フランスではこのようなカウンセリングルームや診察室、事務所のことをキャビネ(le cabinet)と呼びます。
マンションの建物にある1室で、受付はなく待合室にも誰もいませんでした。カウンセリングルームはシンプルな内装ながらも、絵画や花、子供が遊べるおもちゃなどが置かれていて温かみのある雰囲気。
「今日はどうしてここにきましたか?」という問いかけから始まり、私が湿疹の悪化で辛いという本題に入っていきました。50分間のカウンセリングは、基本的には心理士は傾聴の姿勢で、時々質問をしてきてそれに私が答える、という方法で進みました。
何を話したか具体的な内容は覚えてないのですが、カウンセリングを通じて、自分の中で疲労と憤りを抱えていたことを自覚できました。そして第三者に自分の考えを伝えるということによって、混沌としていたこころを整理することができました。これは、親しい友人や家族に話を聞いてもらい気持ちをすっきりさせることとは違った感覚です。
「次の予約どうします?あなたにお任せしますよ」と言われ、その後もその心理士の所に通いました。毎回形式は同じですが、気持ちがだんだんと落ち着いてきて、3回目の終わりには自分の中で「もう大丈夫」という確信がもてたので、そこでカウンセリングは終了。
皮膚科の先生の「プスィへ行く」というアドバイスのお蔭で自分と向き合う時間をしっかり持てたのは大切な経験でした。その後、湿疹の症状もよくなっていきました。
早期治療に向けて メンタルヘルスへの取り組み
フランスには、こころの不調を早期に発見しサポートする支援制度があるので、代表的なものを2つ紹介します。
公的なメンタルヘルス相談窓口「CMP」
CMP(Le Centre Médico-Psychologique)とは、医療心理センターのことをさします。精神科医、心理士、看護師、ソーシャルワーカーなどの専門家チームが在籍しており、総合的なサポートを受けることができます。
かつて精神科医療は病院中心で行われていましたが、治療をおこなう機関を地域へ分散させる目的で、1960年の精神科医療区域法(la loi de sectorisation psychiatrique)によって作られました。自分の住んでいる所によって行くべきセンターが割り当てられ、すべての人が普段の生活をつづけながら治療が受けられるようになっています。
・対象となるのはどのような人?
子供から大人まで、心に苦痛や悩みを抱えているすべての人を受け入れています。CMPには、子供・思春期を対象としたセンターと、成人を対象としたセンターの2種類があります。
・どのような症状が対象になる?
軽い不安やストレスから、うつ病、依存症、重度の精神疾患まで幅広く対応しています。
・利用するには?
だれでも利用が可能です。医師の紹介状は必要ありませんが自分の住んでいる地域にあるCMPに事前の電話予約が必要です。
・料金、還付のシステムは?
診療費はフランスの公的医療保険(Assurance Maladie)で全額カバーされます。
費用負担を減らし、心のケアの選択肢を広げる「Mon soutien psy」

フランスでは生涯のうちに約5人に1人が精神疾患を経験しているものの、費用の負担がネックとなりカウンセリングを受けるのを躊躇している状況があり、それを改善する取り組みとして作られたのが Mon soutien psy(私の心理サポート)制度です。12回まで民間の心理士とのカウンセリングにかかる費用を公的医療保険と民間追加保険でカバーする仕組みです。
CMPは自分の住んでいる地域によってカウンセリングを受けるセンターが決まっていますが、このMon soutien psyでは、職場や学校などの近くで探すこともできるので選択の自由度があります。
・対象となるのはどのような人?
この制度は、3歳以上のすべての人が対象となります。収入による制限はなく、子供、青年、学生、成人まで幅広く対応しています。
・どのような症状が対象になる?
軽度から中等度の精神的な症状をサポートするために設計されています。精神科の救急対応が必要な状態、深刻な依存症、または重度の精神疾患については、この制度の対象外となります。
・利用するには?
制度に登録されている提携心理士の予約を取ります。予約方法は、医師や助産師に相談して紹介してもらうか、公開されているリストから自分で直接予約するかの2通りがあります。その後、初回面談にて今後の具体的なサポート内容を決めていきます。
・料金、還付のシステムは?
初回面談及び継続的なカウンセリングは一回につき50ユーロと決められています。いったん患者が全額を自己負担し、後から公的医療保険と民間追加保険から口座に払い戻しされるという仕組みになっています。民間追加保険は、フランスでは医療費の補填として加入している人がほとんどですが、選ぶ保険やプランによっては全額還付とならない場合もあります。
まとめ
フランスにくるまで私はメンタルヘルスについての知識がほとんどありませんでした。自分の経験やフランスの行政の取り組みを知ることによって「何かあったら気軽にメンタルヘルスの専門家を頼ればいい」という視点をもてるようになりました。今回紹介した制度以外にも在フランス日本大使館では日本語で相談できる心理士や療法士のリストも閲覧できます。興味のある方は大使館のサイトを覗いてみてくださいね。
在フランス日本大使館:日本語の通じる心理相談
https://www.fr.emb-japan.go.jp/itpr_ja/04001.html
執筆 YUKO












