2025年10月21日(火)、パリ・ルーブル美術館で19日に発生した宝石の窃盗事件は、フランス国民に大きな衝撃を与えています。犯人は現在も逃亡中で、捜査が進められる一方、これまでも幾度となく指摘されてきたセキュリティの不備、老朽化問題への議論が再燃しています。国会では捜査委員会を結成する動きもでています。ルーブル美術館は昨日臨時休館し、本日は火曜は休館日で閉館しています。
「モナリザ」も危ない?、展示室の3分の1は監視カメラなし
19日、朝9時半ごろ、4人の犯人は移動式梯子を利用し、ルーブル美術館のセーヌ川側の窓を割ってアポロン間(Galerie d’Apollon)に侵入、展示ケースのガラスを割り、ナポレオン時代の宝石8点を持ち去りました。
その間わずか7分間、盗品をもった犯人らは、梯子の下で待機していたバイクで逃亡しました。
唖然とする監視員、客を外に誘導
アポロンの間には3名の監視員がおり、音を聞いてさらに2名が隣の部屋から駆けつけました。ちなみに3名は女性でした。監視員の役割は、入館者が作品に触れたりしないように注意したり、問題発生時に「入館者の安全確保」のための誘導といったものです。
そのため入館者に接触したり、泥棒をつかまえることはなく、必要な場合は警官を呼ぶことになっています。これについて熟知している強盗がなんの妨害もなく宝石を盗む間、警備員は入館者を外に誘導しました。
監視カメラなし、監視員数は年々削減、6月には抗議ストも
テレビやSNSなど、報道では入館者が隠し撮りした映像が出回っています。なぜならこの部屋には監視カメラがありませんでした。
アポロンの間も含め、「デノン翼」にある展示室の3分の1には監視カメラがありません。もう一方の「リシュリュー翼」にいたってはその割合は3分の2となっています。
ちなみにアポロンの間は近年改装したばかりでした。
今年6月、ルーブル美術館のセキュリティに危機感をもった館員らは、老朽化やセキュリティの不備、監視員の人員削減への抗議のためストライキを行っていました。
犯行の様子のシミュレーションは、下記ニュースをご覧ください;
盗まれたフランスの国宝、その価値は「計り知れない」
今回盗まれた宝石8点は、19世紀のナポレオン朝から第二帝政期にかけてのフランス王室の宝飾品です。
その中には、ナポレオン一世の二番目の妻、皇后マリー=ルイーズ(Marie-Louise)のエメラルドのパルール(同じデザインで作られた宝飾セット)のネックレスとイヤリング(parure en émeraudes de Marie-Louise)、フランス最後の王妃マリー=アメリ(Marie-Amélie)のサファイアのパルール(parure de saphirs de la reine Marie-Amélie)のネックレスとイアリング、ティアラ(王冠)が含まれています。
さらに、フランスの宝飾芸術の絶頂期ともいわれる第二帝政時代の作品で、ナポレオン三世の皇后ウジェニーの胸飾りのリボン(Grand nœud de corsage de l’impératrice Eugénie)やティアラも盗まれてしまいました。
強盗は、同じくウジェニーの王冠(couronne de l’impératrice Eugénie)も持ち去ろうとしましたが、サイズが大きくバッグにいれるのに手間取ったのか、侵入してきた窓のあるバルコニーに置き去っていきました。この途方もない価値の王冠は破損しています。
マクロン大統領、「フランスの文化遺産への攻撃」
大統領はXへの投稿で「フランスの文化遺産は我々の歴史」であり、「必ず取り戻して、犯人を法の下に裁く」と述べています。
さらに、今年1月に始めた「ルーブル・ヌーヴェル・ルネサンス計画」では、安全対策の強化を進めていること、そしてこの計画は「私たちの記憶と文化を守り続けるための保証となる」と主張しています。
しかしながら、1911年に職員がモナリザを盗んだ事件をはじめ、ルーブル美術館での盗難はこれが初めてではありません。
セキュリティ強化の欠落は政権をまたいで何十年にもわたる「政治の怠慢」であると、非難の的になっています。
老朽化した建物の修復やオーバーツーリズムへの対応に合わせ、セキュリティ強化が急務になっています。
執筆:マダム・カトウ