南仏、プロヴァンス(Provence)。
その言葉を耳にしただけで、さんさんと輝く太陽の光を感じ、ハーブの香りが漂ってくるようです。それから地中海の眺め、勾配のあるラヴェンダー畑、岩山にたたずむ鷲の巣村…。
プロヴァンス地方は、実はフランス最古のワイン産地であり、またこの国を代表するロゼワインの産地でもあります。今回はこのプロヴァンス地方とワインとの関わりについてご紹介します。
フランスで最も歴史のあるワイン産地
プロヴァンス地方はフランスの南東部に位置し、ローヌ川左岸のエクス=アン=プロヴァンス(Aix-en-Provence)からニース(Nice)やカンヌ(Cannes)といったリゾート地がある地中海の沿岸かけて広がるワイン生産地です。
年間を通して日照に恵まれた地中海性気候で、湿気を嫌うブドウの栽培に適した土地です。また、中央山塊とアルプス山脈の間から降りてくる「ミストラル」と呼ばれる強風がブドウを病害から守る役目を果たしています。
ハリウッドスターのワイナリーも
プロヴァンス地方のワインは、フランスで最も古い歴史を持っています。遡ること紀元前600年頃、古代ギリシャ人が現在のマルセイユを植民地とした時にワイン作りがはじまったとされています。
中世には修道院が、また14世紀以降は貴族や王室高官がブドウ畑を所有し、現代のワイン作りの礎が築かれました。
近年ではハリウッドスターのブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーがプロヴァンスに高級ワイナリーを所有し、国際的な注目を集めました。またLVMHグループが当地のワイナリーを買収して話題となっています。
プロヴァンスワインの特徴は
地元のワイン関連団体であるプロヴァンスワイン委員会(CIVP)のデータによると、プロヴァンス地方のワイン生産量の8割以上をロゼが占めています。
プロヴァンスで作られるロゼはグルナッシュ(grenache)やサンソー(cinsault)、シラー(syrah)といった南部特有の黒ぶどう品種をブレンドし、軽やかで果実味あふれる味わいが特徴です。
近年フランスでは、ロゼワインの消費量は赤ワインと白ワインをしのいでおり、特にアルコール離れが進む若い世代を中心に支持されています。
地元では夏のテラスに映える一杯として、冷やして昼間でも楽しむのが日常となっています。
日本にはあまり出回らないものも
プロヴァンスの魅力はロゼにとどまりません。南西部のバンドル(Bandol)では力強い赤ワインが作られます。樽で熟成されたパワフルな赤ワインは、肉料理との相性抜群です。
またマルセイユの東部、地中海に面するカシ(Cassis)では繊細な白ワインが産まれ、魚介料理との調和を楽しめます。
ただプロヴァンス地方は観光地が多く地元消費が盛んなため、日本を含め海外ではあまり出回っていません。
プロヴァンス料理とのペアリングは
プロヴァンス料理にワインはつきものです。特に地元特産のオリーブやトマト、ハーブを使った家庭料理にはロゼがよく合います。ラタトゥイユやタプナードなどの軽い前菜とも好相性です。
またバンドルの濃い赤には、グリルしたラムや野性味のあるジビエ料理。カシの繊細な白には、レモン風味の地中海産魚介類やアニスの効いたブイヤベース。これらと合わせるとより南仏らしさが引き立ちます。
ユニークなワイナリー
ニースの市街地から車で10分ほどの丘陵地にあるワイナリー「シャトー・ド・ベレ(Château de Bellet)」では、アルプス山脈のふもとと青い海を見下ろす絶景を楽しむことができます。
リゾート地の喧騒から離れ、自然の中でニース産のワインを味わう特別な時間を堪能できるでしょう。
また、エクス=アン=プロヴァンスの郊外にあるワイナリー「シャトー・ラ・コスト(Château La Coste)」では、ワインと宿泊、現代アートが融合したユニークな体験が可能です。
「ワイン街道」をドライブしながら
フランス国内には「ワイン街道(route des vins)」と呼ばれる街道が複数存在します。
プロヴァンス地方にも西はローヌ川左岸から、地中海沿岸を経て東はニース市内に及ぶ約200kmにわたる街道があり、風光明媚なぶどう畑を楽しむことができます。
サイクリングやドライブがてら、ワイナリーを訪問するのも楽しそうです。
南仏へと誘うばら色の一杯
ロゼワインには、陽の光、風、そして人々の暮らしが反映されています。このばら色の一杯が、味わう人を南仏へと誘ってくれることでしょう。
執筆:Quiyo(キヨ)