数回に渡り、パリのバリアフリー化事情をお届けしています。RATP(Régie autonome des transports parisiens パリ交通公団)の職員さんが必ず最終目的地を聞く理由は「降りる駅を確認するため」とあと一つ、何でしょうか。
パリのメトロにはエレベーターがない
それは…「メトロを利用しないか把握するため」でした。一体どういうことでしょう。職員さんに話を伺いました。
「パリのメトロは1番線と14番線の一部を除いてほとんど全ての駅にエレベータがなく、バリアフリー化されていません。ですから、車いすで利用するのはほぼ不可能なのです。車いす利用者の皆さんには大変苦労をかけますが、目的地まではRERとバス、トラムウェイを利用してもらうしかないのです。そこで必ず行先を確認しています」
パリの地下には縦横無尽にメトロが走っていて、市民の重要な足となっています。古くから利用されていることに加え、アリの巣のように入り組んだ構造のため、エレベーターはおろかエスカレーターすらない駅もまだまだ多いのです。全駅がバリアフリー化されるのはまだまだ先のようです。
車いすではエスカレーターを使えない
パリのメトロ・RERの駅では、車いすでのエスカレーターの利用は許可されていません。またエスカレーターは故障などで動いていないことが頻繁にあるので、車いすでのメトロ利用は極力避けたほうが無難です。
電車とホームの間に渡し板を
てくてく、ホームの一番端まで行きます。RERのホームはかなり長いのでけっこう歩きます。この日は非常にいい天気だったのでよかったのですが、もし大雨だったら大変です。
さて、向かった先になにがあるかというと…RERとケ(le quai プラットホーム)をつなぐ渡し板です。時々落書きなどされていますが、車いす利用者にとっては電車と彼らをつなぐ大切な橋。大切にしてほしいいものです。
電車が到着するまでの間、目的地のデパートBHVにどう行けばいいか職員さんが説明してくれます。シャトレ・レアル(Châtelet les Halles)駅でメトロ1番線に乗り換えて、隣の駅…といきたいですが、メトロはエレベータがないので断念。バスを使うか徒歩でも行ける距離なので、今回は歩くことにしました。
横幅の大きな渡し板
いよいよ電車が到着。写真を見ていただくとわかるように、電車とプラットホームの間には大きな隙間と段差があります。そこに職員さんが手際よく渡し板を装着し、運転手さんに降車駅を伝えます。この時、運転手さんは必ずこのように少し外にでて状況を確認しています。
渡し板は横幅を大きくとっているので、大型の車いすでもスムーズに走行できます。しっかり最後まで乗り込んだのを確認してから、さっと渡し板を外します。職員さん、お疲れ様です。
無事に電車に乗れてほっと一息。車いす優先スペース(自転車などもこの場所)に固定して目的地を目指します。
フランスにも「優先席」はある
ちなみに「優先席、シルバーシートなんてものがあるのは日本だけだ」と聞くことがありますが、フランスにもあります。「プラス レゼルヴェ(des places réservées 専用席)」がそれです。
しかし、プラス レゼルヴェであろうがなかろうが、お年寄りや体の不自由な方、妊娠中の人や体調の悪そうな人を見ると、みんな自ら座席を譲ります。
時にはみずから「妊娠中なので席を譲ってもらえますか」などと頼むこともあります。それで嫌な顔をする人はいませんし、「どうぞ。気づかなくてすみません」と気遣います。
席を譲る行為は「いたってシンプル」
満員電車でお年寄りが乗ってきたら近くの人が開いている席を探したり、座っている人に「この方に席を譲ってもらえませんか」と聞きます。それはいたって自然でサンプル( simple 単純)な行為で、「席が必要な人がいれば譲る」という考えなのです。
ベビーカーはたたまなくていい
また、混雑した車内でもプセットをたたむことはあまりなく、「混雑した電車にプセットは乗せるべきではない」という考えはありません。子供を育てる親の権利が社会的に認められ保障されています。
次回も引き続き、パリのバリアフリー事情をお伝えします。果たして、目的地には無事にたどり着けたのでしょうか…。そしてモンマルトルへはどのように行ったのでしょうか。
執筆 Daisuke