2024年2月4日(火)、バイル内閣は成立が遅れていた25年度予算、および社会保障予算案の一部を3日強行採択しました。成立から3か月で総辞職に追い込まれたバルニエ前内閣の内容をほぼ踏襲した予算案に猛反対する極左党は早速内閣不信任案を提出しましたが、社会党、極右など他党が追従しないことを表明しています。
極左党、内閣不信任案提出、社会党「フランスの安定」優先で追従せず
バイル内閣は議会で過半数を持たないため、予想通りフランス憲法49条3項(49.3)を行使し、国家予算と社会保障予算を議会の承認なしに成立させました。
これに対し、極左政党不服従のフランス(LFI)は内閣不信任案を提出しました。しかし、中道左派の社会党や極右政党はこれに賛同せず、不信任案は否決され、バイル内閣は総辞職を免れました。
社会党のオリヴィエ・フォール(Olivier Faure)党首は、「この内閣には反対だが、フランスには予算が必要だ」と述べ、大きな妥協をしたことを認めました。
社会党、極左と決別か?
昨年の総選挙で、社会党はLFIやエコロジー党とともに左派連合、新人民戦線(NFP)を結成しています。しかし、今回の不信任案をめぐる対立によって内部の溝が深まり、前回の総選挙で最も多くの票を獲得したこの連合の存続が危ぶまれています。
多岐にわたる予算カット、空港税、高所得者へ増税、税収増には疑問の声
年度末までに財政赤字を(GDP)の5.4%に抑えるため、予算案には 320億ユーロ(約5兆1401億円、1ユーロ=約160円)の歳出削減と210億ユーロ(約3兆3730億円)の税収増が盛り込まれています。
歳出削減の対象は、文化、環境、高等教育、研究、農業を含むほぼすべての省庁に及びます。
また、公務員に対しては給与の据え置き、特別賞与の支給なし、病欠手当の支給率を100%から90%に引き下げといった措置が講じられています。
さらに、バルニエ内閣時代に予算に盛り込まれた空港税の大幅増税も、航空会社の強い反対にもかかわらず採択されました。
所得税対象外60万人は維持、高所得者に増税
所得税の非課税対象は、年収11,497ユーロ(約184万円)未満の人で、約60万人が該当します。
ただし、フランスの所得税は世帯単位で課税されるため、結婚やPACS(民事連帯契約)扶養家族の人数を考慮して算出されます。その結果、2024年に課税対象となった4,070万世帯のうち、実際に所得税を支払ったのは1,800万世帯で、全体の44%にとどまっています。
一方で、年収25万ユーロ(約4,000万円)以上の高所得者に対する増税が盛り込まれました。
また、上場企業などの大企業には「特別追加課税」の導入が予定されており、これにより約80億ユーロ(約1兆2,830億円)の税収増が見込まれています。
これに対し、LVMH社のベルナール・アルノー(Bernard Arnaud)氏など企業のトップらは痛烈に非難しています。
今回新たに盛り込まれた予算案では、砂糖を多く含むソーダ飲料、タバコやオンラインのロト(宝くじ)などが増税対象になっています。
また、事前協議で議論となった不法滞在外国人向けの医療提供予算は、昨年から減額され13億ユーロ(約2,085億円)となりました。
社会保障予算、病欠手当の上限の引き下げ
フランスでは医師の証明がある病欠の場合、民間企業の従業員は給与の約90%が保証されています。このうち50%は社会保障で負担され、残りは雇用主負担となっています。
現在、社会保険庁が負担する上限額は最低賃金(SMIC)の1.8倍までとされていますが、今後1.4倍に引き下げられます。これにより約4億ユーロ(約641億円)の歳出削減が見込まれています。
執筆:マダム・カトウ