フランスの名優アラン・ドロンさん死去 遺言の「自宅の庭に埋葬」は可能か

2024.08.20

アランドロン死去

2024年8月20日(火)、世界的映画スター、フランス映画界のレジェンド、俳優のアラン・ドロンさん(Alain Delon)が18日、88歳で亡くなりました。フランス国民のアイドルだった同氏の自宅の門前には、その死を悼む人々が続々と献花に訪れています。家族関係が複雑だったこともあり、早速その遺言の内容が話題になっていますが、その中の一つに「自宅の庭に埋葬」が明記されています。はたして可能なのでしょうか?

 

フランス政府主催の追悼式「希望しない」、政治の関与お断り

フランスを代表するスターだったことから、2021年に亡くなったジャン=ポール・ベルモンドさん(Jean-Paul Belmondo)の時のように、フランス政府主催の追悼式が行われることを期待する国民も多い中、遺言状には「希望しない」と明記されています。

とはいえファンがお別れを言う場をつくるのは「義務だ」という生前の本人の意思を尊重し、映画界の人を招待したこじんまりした追悼の会が行われるとのこと、詳細は後日発表になるようです。

世界中で「特に日本で人気だった」と報道する、アラン・ドロン追悼ビデオ:雑誌パリマッチ(Paris Match)

 

自宅で愛犬達に囲まれ葬儀、庭に埋葬を希望

アラン・ドロンさんは、派手なスターのイメージとは裏腹に、亡くなるまでの約50年間を、パリの南約150km、ロワレ県(Loiret)に位置する人口1,400人余りのドゥシー(Douchy)村にある自宅で過ごしました。

彼は自らの葬儀のために敷地内に作らせたチャペルで35匹の犬に囲まれて葬儀を行い、庭に埋葬することを遺言として残しています。

フランス法、庭に埋葬は原則禁止

自宅の庭などの私有地に埋葬することは法律で禁止されています。しかしながら、例外の適用を葬儀業者を通じて県知事に申請することは不可能ではありません。アラン・ドロンさんの場合、ロワレ県知事は原則的には承諾しています。

葬儀法専門家のテオ・クレール(Théo Clerc)氏によると、申請できるのは残される家族のみで、生前に自ら申請することはできません。

「例外」申請条件に、地下水を汚染しないこと

私有地があればいいというわけでもなく、申請にはさまざまな条件があります。その一つは、当然埋葬場所が都市部にないこと、そして特に重要なのは埋葬により土地が汚染されないことです。

なぜなら遺体には本人が生前に服用した薬や病気をはじめ、様々な汚染源が含まれているからです。

そのため、まずはフランス国立健康局 (agence régionale de santé:ARS)に依頼して水文地質調査の専門家を雇い、地下水を汚染する危険性がないことを証明させなければなりません。

アラン・ドロンの自宅がある敷地は120ヘクタールあまり、最も近い都市フォンテーヌブロー(Fontainebleau)から約60kmも離れており、水源も汚染しないと認定された場合、2つの条件はクリアします。

 

「前例なき」私有地への埋葬なるか、アラン・ドロンの場合

最大の問題は土地に関する権利です。

私有地に埋葬された場合、その遺族及び子孫は永遠に墓参りをする権利を保持します。つまり、たとえ土地を売却しても、新しい所有者は遺族や子孫に対し墓参りをする許可を永遠に与えなければなりません。

埋葬に詳しいルイ・ルフォワイエール・ドゥ・コスティーユ(Louis le Foyer de Costil)弁護士によると、「故人の尊厳を保つ」という理由で「土地の利用に制限」ができることも大きな問題です。

たとえば、村の公共サービスとして、墓のある場所の下に光ファイバーケーブルを通す工事が必要になるといった場合にトラブルになることが予想されます。

プロテスタント信者、長らく私有地に埋葬

こういった理由で2008年、私有地の埋葬は禁止されましたが、実はそれまで許可されていました。

カトリックとプロテスタントの宗教戦争後、フランス国王がカトリックに改宗すると、フランスの多くの墓地でプロテスタント教徒だった死者を埋葬することができなくなりました。

そのため、彼らは長い間私有地に埋葬していたわけです。

大スターだったが、国王ではない

また今後100年、200年経って、子孫が墓の管理をしなくなったり、子孫が途絶えたりして墓を移転させる必要がでた場合、誰が許可を与えるのかといったことも懸念されます。

同弁護士によると、「確かにアラン・ドロンは大スターでしたが、フランス国王だったわけではありませんから」と、これまでほとんど許可がおりたケースはありません。

遺族は死後15日以内に埋葬しなければなりませんが、県知事が許可すれば、私有地での埋葬は禁止されて以来ほぼフランス初のケースとなるでしょう。

亡くなってからも話題の絶えないアラン・ドロンさん、ご冥福をお祈りします。

執筆:マダム・カトウ

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