5月28日(金)、フランス政府は今年の経済成長率を5.7%と予想していますが、経済学者アンヌ=ロール・ドゥラット(Anne-Laure Delatte)氏によると、これを達成する為にはコロナ禍の収束や海外、特に欧州各国の経済回復、そして来年5月の大統領選まで1年を切った政治リスクなど3つのハードルがあります。
コロナ反動消費、戦後高度成長期以来の伸びを期待
ル・メール経済相(Bruno Le Maire)は、メディアのインタビューに答え「フランスの経済は回復に向かっており、これからより速く、より強く再起動する」と楽観的なコメントをしています。
政府及びヨーロッパ委員会(Comission européenne)のフランス経済の伸び率は5.7%と予想されていますが、これはフランスで「黄金の30年」と呼ばれる1945年から75年までの高度成長期以来の高い値です。
ドゥラット氏は、コロナ禍で失われた消費を「取り戻す」国内消費の伸びは「当然のこと」で、政府の楽観モードに釘を刺しています。
コロナリスク、第4波の恐れ
確かに欧州各国でロックダウンや行動規制などが徐々に解除されており、アメリカでもワクチン接種が進んだことで感染に関する数値は今の所「良好」です。
しかしながら、ドゥラット氏は「1年前の5月、ロックダウン解除後にまさかコロナ禍がその後1年以上続くとは誰が想像したでしょうか?」と、第4波がこないとは断定できないとコメントしています。
氏によると、フランス経済はコロナ禍による不景気の真っ只中におり、そこからの真の脱却は、先進国だけでなく世界でのワクチン接種がどれだけ進むかによります。
国際リスク、EU経済回復の遅れ
巨額の財政出動でめざましい経済回復が見られるアメリカを尻目に、欧州は大幅に遅れをとっていると言わざるを得ません。昨年7月に欧州首脳会議で合意した「コロナ復興基金」の実行が著しく遅れをとっている事が大きな理由の1つです。
7500億ユーロ(約100兆4300億円/1ユーロ=133.9円)という巨額の資金を「気候変動対策」や「デジタル化」投資、その他の構造問題の解決に利用する財政資金として、必要な国に半分は補助金の形でEU加盟国に振り分けられるものですが、ドゥラット氏によると「まだ本格的には実行されていないうちから、すでに第2の対策の必要性が浮上」しています。
各国の政治事情などが絡む為、第2の対策をまとめるのは困難かつ時間がかかりますが、それでもEUがなければ「もっと悲惨」な状況になるとドゥラット氏は見ています。
EUからの支援を受けるポーランドやブルガリアなどの国の経済はすでに「破綻」しかけている上、EU加盟国内でワクチン接種が進んでいない国が多々ある事も、EU経済の回復に重くのしかかっています。
政治リスク、大統領選まで1年弱、極右台頭
ドゥラット氏はフランス政府が過去1年半のコロナ禍でとってきた経済政策を「おかげでフランス人の購買力や企業活動は維持されています。そういう意味では全てが破壊された戦後の経済復興とは比較になりません」と評価しています。
しかし、フランスは来年の5月、今から1年以内に大統領選を控えています。これが経済復興に3つ目のハードルとなる可能性を示唆しています。
マリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)党首が率いる極右政党、国民連合(RN:Rassemblement national)への支持率が上がっており、第一回投票で現職のマクロン大統領を抜いて首位に立つのではないかと言われています。
国民連合のみならず、そのほかの反EUの政党が政権を取る、もしくは見込みが高まると、金融市場が敏感に反応し、金利が上がるであろうと氏は見ています。
そうすると、フランスの財政赤字が更に膨れ上がることになります。
現在までフランス政府は「超低金利」で調達資金を行っており、金利の上昇は経済復興投資の大きな足かせになると危惧されます。
執筆:マダム・カトウ