外国語を勉強していて、必ずと言っていいほど直面するのが「訳せない言葉」。フランスの新聞ル・モンドのこの記事によると、世界各国のそうした言葉を研究している心理学者がいるそうです。
その研究者のウェブサイトには、英語にない言葉を中心に40ヶ国語以上の「訳せない言葉」リストが載っています。もちろんフランス語もリストにある言語の一つ。その中から、日本語にも訳しづらい、または一語では表せなさそうなフランス語をご紹介します。
食に関する言葉がたくさん
1. Bon vivant
「楽しむことが好きな人」などの意味です。この言葉に飲食に関する単語は入っていませんが、おいしい飲み物や食べ物を楽しむ人に対して使うことが多いです。
ただ日本語の「グルメ」のような食通とは異なり、「食事の時間を楽しむ」という意味も少し入っています。
2. Bon appétit !
まさにフランス語を習い始めた時に出てくる「訳せない言葉」で、日常的に使う表現です。「良い食事を!」という意味ですが、日本語ではそれほど言いませんよね? 食べる人は「いただきます」、料理を出す人は「どうぞ」など、それぞれで異なる表現を使うと思います。
しかしフランス語では、レストランでも家庭でも、料理を作った人も一緒に食べる人も、とにかくその食事に関わっている人であれば誰に対しても使えます。フランス語ならではの表現/挨拶です。
3.Terroir
terroir という表記からも分かるように、terre(土地、土)に関連しています。日本語ではおもにワイン関連の文章で、そのまま「テロワール」と書かれています(他の食品にも使えます)。これも訳すとなるとなかなか難しい単語です。
土地/地形の質(ワインの場合だとブドウ畑)とも訳せますが、それだけではなくその場所の天候、その土地ならではの栽培方法・技術など、いろいろな要素を含んだ「土地の特徴」という意味があります。
ここまで広い意味をあわせもつ「土地」というのは、個人的にはもはや哲学的な感じすらします。
4.Gourmand
フランス語の gourmet の定義を見てみると、「洗練された食べ物・飲み物をたしなむ」という説明が出てきます。日本語の「グルメ」も、「食通」や「料理などの知識が豊富な専門家」というイメージが強いです。
ですがこの gourmand はグルメとは少し違い、もう少し庶民的な「食べることが好きな人」という意味です。日本語の「食いしん坊」とは異なり、gourmand にネガティブなイメージはありません。まさに食の国フランスから来た言葉だなと思います。
5.Apéritif
「アペリティフ」は日本語でも「食前酒」の意味でよく使われています。ですが元々のフランス語は、その飲み物をたしなむ空間や食事の前の時間をも含めた、もっと広い意味の言葉です。
このため正確を期そうとすると「アペリティフの時間」とか「アペリティフを楽しむ空間」と補足説明が必要になり、ひとことで訳しにくい単語の一つといえます。
ファッションや、人生に関する言葉も…
6.Chic
日本語で「シック」というと、おしゃれのイメージが先行すると思います。もちろんフランス語の chic にも「エレガントな、洗練されたおしゃれ」という意味があり、ファッションなどで多く使われています。
ただ chic には口語で「感じのいい」という意味もあり、おしゃれではなくても「感じの良い人」という場合などに使えます。
おしゃれの分野だけでなく、庶民的な意味をもかねそなえた形容詞。使いこなすのがなかなか難しいと私は感じます。
7.Bricolage
(家のものを)自分で修理したり作ったりする作業を指します。動詞にすると bricoler。今の言葉でいうと「DIY」ですが、DIYが浸透する前からある表現です。しかも一語で表せてしまいます。
日本語にも「直す」「作る」という言葉はありますが、「プロには頼らず自分でやる」という意味をもつ単語は見当たらないように思います。DIYという英語が日本語の中に浸透している理由の一つではないでしょうか。
8.Joie de vivre
辞書には「生きる喜び」という訳が出ていますが、もう少し補足が必要な単語です。仏仏辞書でこの言葉の説明を見てみると、「人生のいろいろなステージや生活シーンに出てくる出来事を達成・実行することで得られる喜び」という意味が強いようです。
生きる喜びは何かを達成すること、というとらえ方なのでしょうか。
9. Mot juste
直訳すると「正しい言葉」という意味ですが、これだと少しぼんやりした感じです。実際の会話では「その状況にあった的確な言葉」という意味で使われることが多いです。「的確な言葉」と訳すことも可能ですが、「一言で(言うと)」という意味もあり、まさに日本語訳のための mot juste を見つけるのが難しい言葉です。
10.Débrouillard(e)
意訳してみると「なんとかする(人)」になります。なにかハプニングやトラブルが起こっても、自分で何とかしてその状況から抜け出せる人、という意味です。「独立した」にも近いけれど少し違います。サバイバルというほど大げさではないけれど、日常において自分でなんとかしてしまう、というニュアンスがこめられています。
訳せない言葉から見えるもの
以上、リストから私の好きな単語をいくつか選んで紹介してみました。
「訳せない言葉」からは、その言語が使われている「社会」のようなものも見えてくる気がします。ちなみにリストには日本語も載っていて、印象に残っているのは「我慢」「頑張る」「お疲れ様」でした。
リストにはまだまだ色々な言葉が載っています。ぜひ使ってみて、フランス語の生活において Débrouillard(e) になってください!
*単語の説明には、La Rousseのオンライン版仏仏辞書を参考にしました。
執筆:Amy