2017年からフランスの景気は回復の兆しがみえてきたものの、国民の懐事情は一向に改善しないため、今春の一連のストライキ(国鉄、エールフランス、メーデーのデモ)も、最終的には購買力が上がらないことが不満の原因と言われてています。
2017年のGDPは予想を越え、最終2.2%上昇
フランス国立統計経済研究所 INSEE(Institut National de la Statistique et des Études Économiques)は、2017年のGDP伸び率を5月15日の発表で、2.2%と上方修正しました。2016年は1.2%、2015年1.1%と低迷していたので、2017年はフランスの景気回復の兆しが現れた1年だったと言われてています。しかしながら、2018年の第一四半期の推定伸び率は0.3%~0.4%、4月から始まった第二四半期も0.3%の予想と第一四半期からの伸びが止まりはじめています。
今年の伸び率2%の予測
政府は4月半ばに今年2018年のGDPの成長率は2%と、昨年並みの予測をしています。
しかしながら、フランス国立銀行の最近の企業への調査結果によると、5月に入ってからサービス業は「成長の勢いが弱まって」おり、昨年大幅に伸びた建設業も「成長は微々たるもの」と、伸びが鈍化しはじめています。
フランス人の購買力、0.4ポイント低下
INSEEによると、今年のフランス人の購買力は0.4ポイント低下、1.7ポイント伸びた2017年に比べると家計はかなり苦しくなっています。
INSEEはその理由として、今年1月からの一般社会税CSG(Contribution sociale généralisée)の引き上げ、住宅などへの補助金の引き下げ、およびタバコやガソリンにかかる付加価値税の値上げを指摘しています。
マクロン政権の公約は、「給与所得者の手取りを増やす」
2018年1月から、給与所得にかかる社会保障費用が合計2.4%下がりました。さらに、今年の10月に0.95%引き下げると政府は発表しています。
この2回の改正により、最低賃金所得者の場合、1498.5EUR(約19万5千円)の額面給与に対し、手取りが月々21.9EUR(2800円)、年間263EUR(約3400円)増えることになります。当然ですが、給与所得が高い人ほど増える手取り額も増えます。
フランスには2100万人の民間企業の給与所得者がいますが、今回の手取り所得増の総額は30億ユーロと言われています。
年金所得者収入減、公務員は据え置き
一方で、この財源を確保するため、一般社会税と呼ばれるすべての所得(給与所得、年金、失業保険)に対して課せられる税が1.7%引き上げられています。
民間の給与所得者は、一般社会税の値上がりを越える社会保障費用の引き下げで手取りが上がりますが、一般社会税しか払わない年金生活者や失業者などは受給額が減り、社会的弱者が犠牲になっていると非難されています。
また、この改正で公務員は民間給与所得者と同じ恩恵を受けず、学校や病院関係者なども不満を募らせています。
富裕税をなくし不動産のみへ課税
政府は一方で、富裕税ISF(Impôt de solidarité sur la fortune) をなくし、そのうちの資産価値130万ユーロ(約1億7千万円)以上の不動産のみに課税する、不動産富裕税IFI(Impôt sur la fortune immobilière)に変更しています。これにより、富裕層への大幅な減税が行われたことになります。
政府は、富裕層の国外への財産の流出を防ぎ、フランス国内での消費と投資に使わせるのが目的と説明していますが、この改正がマクロン政権が「金持ちの味方」と呼ばれ、国民の不満をさらに募らせる原因になっています。
景気回復で期待度が上がり、逆に不満の原因に
4月から国鉄ストにはじまり、エールフランスの賃上げ要求スト、メーデーのデモなどが行われていますが、デモには公務員、年金生活者などさまざまな国民が参加して「購買力の向上」を訴えています。
昨年からの景気回復傾向が国民全体の期待度を押し上げてしまったことが、今年の春闘の激しさを増したとも一部メディアでは報道されています。
5月26日にもデモ予定
この流れにのってか、ジャン=リュック・メランション(Jean-Luc Mélenchon)率いる極左党「不服従のフランス党」(La France insoumise)は、5月8日に「反マクロン政権デモ」を開催しました。また、今月26日にはフランス最大の労働組合CGTと共同デモを計画しています。
2018年5月1日フランスのメーデー、全国で大規模デモの予定 はこちら
執筆:マダム・カトウ