パリ市内の公園、ヴァンセンヌの森の中にあるFerme de Parisの入口
パリでは近年、建物の屋上や空き地を活用した都市型農業(Agriculture Urbain)が広まっています。この10年で80件以上の都市農業プロジェクトが実現し、現在の栽培面積は合計約37ヘクタール(東京ドームの8倍弱)にも及ぶとのこと。今回はパリで都市型農業が広がる背景や、誰でも気軽に訪問することができる農園をご紹介します。
都市型農業が流行する背景
都市型農業が広まっている背景として、まずは地産地消への関心の高まりが挙げられます。生産物の輸送にかかるCO2排出を減らしたい行政と、意識の高いパリ市民の意向が合致した結果と言えるでしょう。
また、子どもたちが野菜や果物の育つ様子を実際に見て学べる食育の場としても注目されていて、都市農園では学校や地域団体と連携したワークショップも頻繁に開かれています。
これらにくわえて都市圏の緑化政策の強化や、コロナ禍を経て自給自足や食の安全への関心がさらに高まったこともこの流れを後押ししていると考えられます。
とは言ってもパリの都市農業は、まったく新しい概念というわけではありません。パリ近郊の菜園がパリ市民の食を支えていた時代もありましたし、地下でのキノコ栽培のように都市ならではの空間を活用する農業も昔から存在していました。近年の屋上農園ブームは、こうした都市と農の関わりの歴史の延長線上にあるといえそうです。
パリにおける有名な都市型農業
パリの都市農業を語るうえで必ず出てくるのが、15区のパリ・エキスポ(Paris Expo Porte de Versailles)の屋上に2020年に誕生したNature Urbaineです。パリ・エキスポは常に巨大見本市が開催されている市内最大のイベントスペースで、2024年にはオリンピック・パラリンピックの競技会場にもなっていました。
その屋上の農園も1万4000平方メートルという欧州最大級の広さを誇り、水耕栽培でトマトやなす、きゅうりを、空中栽培でいちごやハーブを育てていて、シーズン中は1日約200kgもの野菜や果物を収穫しているそうです。土を使わない農法で水や養分を循環させ、都市の汚染物質を取り込まない仕組みの実証研究の場にもなっているようです。
ワインを生産する葡萄畑も
パリ市内にはワインを生産する葡萄畑も存在します。モンマルトルの丘の北側斜面に広がるクロ・モンマルトル(Clos Montmartre)です。起源は12世紀、修道士が礼拝用のワインを作ったことにさかのぼるといわれます。一度は廃れてしまったものの、1930年代に都市開発から丘を守ろうと約2000本の葡萄が植え直されました。
1934年に始まった収穫祭は現在も毎年10月に開かれていて、すっかりパリの秋の風物詩になっています(モンマルトルの収穫祭に関してはこちら)。
モンマルトルの丘の住宅街の中に突如現れる葡萄畑「Clos Montmartre」
地下空間を利用したキノコ栽培も
地下の採石場や閉鎖された駐車場を利用したキノコ栽培もパリではよく聞かれます。ルイ14世が「シャンピニオン・ド・パリ」と呼ばれるマッシュルームを好んだことから栽培が広がり、19世紀末には300近い農家が地下で年間1000トンものきのこを生産していたという記録もあるほどです。
一定の気温と湿度、暗闇を保てる地下空間は栽培にぴったりだったようですが、地下鉄の発達に伴って衰退し、今では数えるほどしか残っていません。
屋上では養蜂も
養蜂は日本も含めて世界各国の都市で見られますが、パリでもよく見られます。特にオペラ座のものは有名です。養蜂に興味を持った小道具係が巣箱を屋上に置いたことが発端で、とれた蜂蜜は評判を呼んだそうです。現在では2万5000〜5万匹のミツバチが暮らすちょっとした養蜂園になっています。
オペラ座での評判がきっかけとなり、ルーブル美術館や官公庁などのほか大きな公園などでも養蜂が行われるようになりました。収穫された蜂蜜はそれぞれの施設や市役所内の公認ブティックなどで販売されています。
誰でも気軽に訪れられる都市農園
上に挙げたところは一般の立ち入りが制限されていたり、ツアー参加が前提だったりするのが少し残念ですが、予約なしでふらっと訪問できる農園もあります。
プランタシオン・パリ
18区の旧物流倉庫の屋上に広がるプランタシオン・パリ(Plantation Paris)は、地上15mの高さに7000平方メートルもの敷地を持つ、ヨーロッパでも大規模な都市農園のひとつです。季節の野菜や食用花、ハーブなどが列になって育てられています。またすぐ近くのサクレクール寺院がよく見えるテラスには、飲み物や軽食がオーダーできるバーまで完備されています。
農園ではありますが、農業や自然に関心のある人が集まるイベントスペースという性格も強く、屋外コンサートや食をテーマにしたイベント、都市生態系についてのワークショップ、ヨガ教室などが開催されています。
地元の人たちが会話を楽しみながら自然と触れ合える、公園と農園とバーがひとつになったような雰囲気がなんとも心地よい空間です。
Plantation Parisの中にあるバー兼イベントスペース
パリ18区のPlantation Parisからはモンマルトルのサクレクール寺院がよく見える
体験型農場フェルム・ド・パリ
ヴァンセンヌの森の中にあるフェルム・ド・パリ(Ferme de Paris)は、約5ヘクタール(50,000平方メートル)の農場で、敷地内は果樹園、菜園、放牧地、動物小屋などがあります。果樹園にはさまざまな種類の果樹が、菜園には野菜やハーブ、薬草がたくさん植えられています。
牧畜エリアでは羊・山羊・豚・鶏・七面鳥などが飼育されていて、パリジャンにとっては普段あまり目にする機会のない家畜を間近で観察できるだけでも魅力的です。
誰でも無料で園内を自由に散策できるほか、子ども向け・大人向けの無料ワークショップも頻繁に開催されています。都心からほど近い公園のなかで、動物の世話や畑仕事を実際に体験できる、本格的な農業体験の場になっています。
Ferme de Parisの中には牧歌的な風景が。ここがパリ市内とは思えない
ただの農地にとどまらない都市型農園
実際に訪れてみると、パリの都市型農園は単に「野菜を作る場所」に留まらないということがよく分かります。人々が食事やイベントを通じて自然と触れ合う「集いの場」としての役割や、子どもたちが動物や農業を身近に学べる「教育の場」としての役割が、生産機能と同じかそれ以上に大切にされている印象です。
地産地消や環境配慮という大きな目的は大前提として、忙しい都市生活において土や動物、季節の恵みに触れられる場所そのものに大きな価値があります。都市型農業はただの農地としてだけでなく、人と人、人と自然をつなぎ直す場所としてこれからもパリに根を張っていきそうです。
執筆 Takashi












