2023年10月17日(火)、フランスではCDI(contrat de travail à durée indéterminée)と呼ばれる契約期間に制限のない正社員職を避け、期限付き契約CDD(contrat de travail à durée déterminée)の就業を好む大卒の若者が増えています。全体的には正社員を希望する人の割合がもっとも多いとはいえ、上司の下で働くのが嫌、自由でいたいなど様々な理由から、自分らしい生き方を貫く傾向が若い世代に強まっているようです。
正社員は「監禁」、親の世代と大きなギャップ
「制約が多く、自由を奪われる」と、23歳のアリゼ(Alizée)さんは、自分の親の世代、今でも多くの求職者が必須条件としていた正社員についてこう語っています。
アリゼさんの考え方は例外ではなく、フランス語でCDI(セーデーイー)と呼ばれる、無期限正社員契約を避ける傾向が20代から30代の若い世代に多くみられます。
30代の栄養士だという女性は、初めての就職を探している時、「正社員の仕事につかなければならない」という親や社会のプレッシャーが大きかったと言います。自分は「(会社や職業が)自分に合うかどうかもわからないから「一つの枠にハマりたくなかった」自分と周りとのギャップを感じたと言います。
最初の就職、「短期契約のみ希望」が4分の1も
ナント・サン=ナゼール商工会議所(CCI Nantes-Saint-Nazaire)が最近まとめた調査結果によると、大卒以上の若者にとって正社員になることは「勲章」でもなんでもなさそうです。
確かに、アンケート調査結果を見ると、最初の就職と活動で「正社員を優先する」が42%ありますが、「期限付き契約のみを探す」と答えた若者が23%にも及びます。
そして、最初の就職でCDD(セーデーデー)(注)と呼ばれる期限付き契約を選ぶと、次の就職でもやはり同じ選択をする、つまりこの傾向は継続する可能性を秘めています。
(注)フランスの労働契約はあくまでもCDIを前提とし、CDDは日本でいう「アルバイト」とは異なり、その採用可能な条件が労働法で事細かに決められています。同一労働同一賃金、有給休暇など社会保障は正社員と差別することはできません。契約期間は、採用する職務や役職、採用理由により延長1回を含む最長36ヶ月まで可能。
自由を求め、コミットメントは嫌
まず、自由を制限されることに抵抗を感じる若者たちにとって、「週35時間、同じ職場で同じ同僚と同じ仕事」を繰り返す」これを一生続けるのは我慢ならないようです。
短期契約を好む人は、自主性や独立性を重視する一方、責任持って関わるという「コミットメント」や一度就職したら退職するのが難しいのではないかという恐怖の間で揺れ動いています。
退職したり、方向転換が困難と感じる
イリーナ(Irina)さんは「CDIは継続を意味する。道徳的な束縛があり、そこから抜けるために退職するための手続きが煩雑そうなので、最初からやりたくない」と感じています。
先述のアリゼさんは「CDIの快適さに慣れてしまうと、一夜にしてそれを捨てて新しい道に進む勇気がなくなるのでは」と危惧しています。
CDI、なんのため?
もしCDIがまだ人気だとすれば、住宅ローンを組むのに必要だからなのかもしれません。
確かにCDIがなければ銀行からお金を借りるのはとても困難です。
ヤディ(Yadi)さんは「住宅ローンのためにCDI?私たちのような若い世代は家なんか一生買えないのに」と嘆いています。この若い獣医さんはまた、CDDであることは「雇用主と従業員の間にある盾のようなもの」で、親しくなることもなく契約期間が終了するからパワハラなど「ハラスメントも避けられる」と確信しています。
CDDなら退職金と失業保険も
CDIは無期限契約のため、自己都合で退職しても失業保険の対象になりません。
CDD期限付き契約なら、社員にとって不安定な、つまり不利な契約であることから、退職時に契約期間の報酬全体の10%を退職金として支払われます。(会社側はCDDの社員をCDIの契約に変えることが奨励されています。)
また、就労期間、勤務時間数に最低限の条件はあるものの、失業保険の対象になります。
27歳で1年前から造園コンセプターとして働くポーリーヌ(Pauline)さんは、社会保障システム上期限付きで働いた方が、契約終了時にボーナスと失業保険をしばらくもらうことで「より良い仕事を探したり、技術を磨いたりする時間に使える」、つまり常に自分の実力、技術を向上させて自分の価値をあげることができると考えています。彼女は「企業は若い高学歴の従業員の成長に投資しない」と言います。
企業は「踏み台」、起業、自営業を好む若者
25歳のアレクシ(Alexis)にとっての仕事は生活費を稼ぐために過ぎず、企業の品質管理の調査員など、短期契約の仕事を転々としています。
「仕事がある間はこれでいい、失業率が上がってきたら考える」という彼は、自分自身のプロジェクトを立ち上げて起業するための勉強をしています。彼は、起業することにより社会に影響を与え、自分のやっていることに意味があると感じています。
彼のようなZ世代には、そもそも給与所得者になること自体が魅力のないのです。
管理職、高学歴者向けのハローワーク、アペック(Apec)の統計によると、35歳未満の若い役職者の20%は給与所得者に否定的なイメージを持っており、15%は個人事業主など独立した働き方を希望しています。
執筆:マダム・カトウ