フランス インフレはいつまで続くのか

2023.06.27

2023年6月27日(火)、インフレのピークは過ぎたものの、物価はしばらく高止まりする、と仏経済相ブリュノ・ル・メール(Bruno Le Maire)は昨日26日、政府のインフレ対策にも関わらず、コロナ禍前のレベルに戻ることはないとの見解を発表しています。

 

インフレ予想、楽観的な見通しから方向転換

ル・メール経済相の過去の発言を振り返ると、2021年11月に「インフレは一時的」、昨年4月には「数ヶ月物価が高い厳しい状況が続くが、年末までには収まる」と行った楽観的なものばかりで、同年10月から11月にかけて物価は過去最高の水準にまで達していました。

経済相はこの時点で2023年の予想を5%程度と発表しましたが、今年の4月には6%に達しています。

昨日出演したラジオ番組では、「あらゆるインフレ対策を続けているが、インフレがようやくピークに達し、今後物価が下降に向かう」という喜ばしいニュースを発表しましたが、今回は「ピークを過ぎてもインフレ率はコロナ禍以前のような年1%弱の上昇率に戻ることはない」と釘をさしました。

経済省は、インフレは高止まりがしばらく続くことになり、今後も「購買力の問題が国民の最大の関心事になるだろう」との見解を述べています。

 

一袋0.5ユーロのパスタ、もう買えない?

コロナ禍前は、安い食材といえばパスタ、500グラム入りで一袋0.5ユーロ(約79円/1ユーロ=約157円)からありました。

「お金がないからパスタばかり食べている」というのも過去の話になるかもしれません。

「今後ピークが過ぎても、物価が下がるわけではない」というのが経済専門家らの見通しです。

マクロ経済専門家のステファニー・ヴィレ(Stéphanie Villers)氏は、「2025年の物価上昇率は2%程度に落ち着く」と予測していますが、それまでの1年半余りの間に物価は「さらに上昇する」と見ています。

万が一2025年の物価上昇率が「ゼロ」という実際はありえない数値でおさまったとしても、2021年から2025年までの4年間の物価上昇率の累計は20%に到達します。

つまり今後も物価高が続くわけです。

 

なぜデフレはダメなのか?

インフレで皆の購買力が下がるなら、いっそのことその逆、つまり物価が暴落、もしくはさらに下がり続ければいいのではないか?と思いたくなります。

このシナリオも「全くありえない話ではない」とはいえ、経済専門家トゥアティ(Marc Touati)氏は「デフレは経済にとって全く好ましくないため政府はなんとしてでも回避しようとするだろう」と述べています。

なぜでしょうか?

デフレとインフレ、ペストかコレラか?の選択

同氏によると、物価が下がり続けるとわかったら、今日買わなくてもいい、明日になったらやはりその翌日でもいいわけです。デフレになると、皆がもっと価格が下がるの待って購買時期を先延ばし、消費が冷え込むことになります。

誰も消費しないということは、経済成長にストップがかかることになります。

企業の売り上げは下がるため企業はリストラを始め、労働者を解雇したり昇給をしなくなります。

そうするとやはり購買力が下がるわけです。

デフレとインフレのどちらがいいか?というのは「ペストとコレラを比べてどちらがいいかと言うようなものだ」と経済専門家はコメントしています。

 

いいインフレと悪いインフレ、コレステロールと同じ?

危機的なデフレは1990年代後半の日本で起こっています。それまで「経済大国」だった日本は、現在までそれ以前の経済成長も「良い意味でのインフレ」も取り戻していません。

今は物価上昇率のあまりの高さに、つい忘れがちになっていますが、年2%程度のコントロールされたインフレは国の経済にとって良いことなのです。

フランスで2021年のロックダウン解除の後、経済が再成長し始め、インフレ率は2%で高過ぎず低過ぎず、非常に良い傾向でした。

マクロ経済専門家のヴィレ氏によると「コレステロールにも善玉と悪玉があるように、インフレにも良し悪しがある」とのことです。

コロナ禍以前のフランス「悪玉インフレ」

コロナ禍以前(2013年から20年)のフランスのインフレは、0.9 %(2013)、0.4 %(2014)、0 %(2015)、0.2%(2016) 1 %(2016)、 1.8 %(2018)、 1.1 %(2019)と低い水準で、当時の政府の悩みは「高い失業率」「低い経済成長率」「給与が上がらない」の3つでした。

つまりコロナ禍以前のフランスは「悪いインフレ」だったわけです。

 

グリーンエネルギー、産業の国内回帰、物価は下がらずも…

ル・メール経済相の説明によると、ピークを超えても物価が高止まりする理由として「グリーンエネルギーへの変換と産業の国内回帰」をあげています。

コロナ禍で中国からの物資の供給がストップしたこと、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の急速な上昇により被った経済への打撃から、政府はエネルギーの安定供給と自給自足のためグリーンエネルギーの稼働を加速させ、一部の生産ラインをフランスに戻すことを支援しています。

確かに人件費が中国より高い仏国内生産、コストの高いグリーンエネルギーの活用で物価が以前の水準に戻ることは不可能とはいえ、経済成長が突然ストップしたり、極端なインフレを避け「良いインフレ」になるというメリットがあります。

どこまで続く、インフレ

結局今のインフレはどこまで行くのか?の問いに、経済専門家トゥアティ氏は「物価が限りなく上昇することはありません。あまりの上昇に消費者はついていけず、財布の紐は締められたままです。販売業者もメーカーも高すぎる価格を調整しに入るでしょう」と述べています。

つまり、もう0.5ユーロのパスタは買えないけど、2ユーロ(約314円)払うこともないということです。

執筆:マダム・カトウ

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