2023年2月24日(金)、フランス国内の映画賞として最も権威あるセザール賞(Prix de César)の授章式が、本日フランス時間20時45分からパリのオランピア劇場(Olympia)にて行われます。賞には注目の最優秀映画賞をはじめ、様々なカテゴリーがありますが、その中の一つ、最優秀監督賞のノミネートに女性監督の名前が一つもないことが明らかになり、仏メデイアで騒がれています。
米オスカーのフランス代表は、女性監督の作品だが
セザール賞の最優秀監督賞はまだ決まっていませんが、男性であることだけは間違いありません。なぜなら今年、女性監督は一人もノミネートされていないからです。
オスカーのフランス代表に、ベネチア国際映画祭(Mostra de Venise)で2つの賞を受賞したアリス・ディオプ(Alice Diop)監督の『サントメール』(”Saint Omer”)が選ばれたと聞いた時、フランス国内の最優秀監督賞のノミネートに女性の名前がないことの不自然さに気づくでしょう。
ディオプ監督に関しては「完全に忘れられた」わけではありません。
なぜなら彼女の作品は「最優秀処女作」にノミネートされているからです。
「最優秀監督賞」で忘れられた?女性監督たち
『パリとの再会:仮題』(Revoir Paris)のアリス・ヴィノクール(Alice Winocour)氏や『他人の子供:仮題』(Les Enfants des autres)のレベッカ・ズロトウスキ(Rebecca Zlotowski)氏の名前はどこにも見当たりません。
最優秀映画賞の最有力候補と言われるルイ・ガレル(Louis Garrel)監督の『イノセント:仮題』(”L’Innocent”) をプロデュースしたアンヌ=ドミニク・トゥッサン(Anne-Dominique Toussaint)氏は、この2人の才能ある女性監督がノミネートすらされていなと知って「唖然とした」と述べています。
これについてセザール賞のオーガナイザー、セザールアカデミー(Académie des César)は、「残念だ」とコメントしています。
最優秀監督賞、女性監督の受賞はたった1度だけ
今年で48回を迎えるセザール賞の歴史の中で、最優秀監督賞に女性監督が選ばれたのは2000年に『ヴェニュス ボテ』(Vénus Beauté) で受賞したとトニー・マーシャル(Tonie Marshall)だけです。
男女平等をウォッチする非営利団体「コレクティブ50/50」が調べたところ、2018年から2022年までに最優秀監督賞にノミネートされた監督のうち、女性監督はわずか20%を占めるにすぎず、受賞に至った女性は一人もいません。
今年も最優秀映画賞候補には、ヴァレリア・ブリュニ=テデスキ(Valeria Bruni-Tedeschi)氏の作品『レザマンディエール:仮題』(LES AMANDIERS)が唯一女性監督の作品としてノミネートされています。
セザール選考人の44%は女性も、選考結果に反映されない
セザールアカデミーは、映画関係者を職種ごとに分けた10のグループ、のべ4705人の選考人から成っています。ここでセザ-ル賞のノミ-ネ-ト作品と優勝作品を選出する仕組みになっています。
この選考人のうち44%は女性で、今年新たに加わった520人の69%は女性です。
女性監督の制作費、男性監督より4割少なく
フランス国立映画センターが2021年に発表した調査結果によると、女性監督の制作費の平均は314万ユーロ(約4億5000万円/1ユーロ=約143円)ですが、これは男性監督に比べ214万ユーロ(約3億円)も下回っています。
コレクティブ50/50の創設者の一人は、映画「ヒポクラテス:仮題」がヒットして一躍有名になった映画監督、トマ・リルティ(Thomas Lilti)の処女作の入場者がたった3000人だったという話を聞いて、「これが女性監督だったら、セカンドチャンスはあっただろうか」と思わずにいられないと語っています。
リルティのプロデューサーらは彼を信じて制作費を出し続けた結果、ヒット作が生まれたというわけです。
アリス・ギィ賞、フランス初の女性監督賞、女性監督の注目度向上に
「女性監督の作品が賞を受賞しないから、注目度が低く、よって入場者も少なく、制作会社も費用を出さないから女性監督が忘れ去られる」という悪循環に陥っていることから、「女性監督による名映画100選」(100 grands films de réalisatrices)の著者でジャーナリストのヴェロニク・ルブリ(Véronique Le Bris)氏は、女性監督だけに与えられる賞を創設しました。
アリス・ギィ(Alice Guy)は19世紀〜20世紀初頭、リュミエール兄弟(frères Lumières)によって映画が発明された時代に女性映画監督の仕事に就いた最初の女性です。
その作品はほとんど残っておらず、彼女の名前は歴史上も注目されることはありませんでしたが、世界初の女性監督の名前を冠したこの賞は、今年『パリとの再会:仮題』(Revoir Paris)のアリス・ヴィノクール監督に贈られます。
執筆:マダム・カトウ