2023年2月3日(火)、アメリカの由緒ある旅行ガイドブック出版社、 “Fodor’s Travel”がそのホームページで、世界の「行っちゃいけない観光地トップ10」と題し、オーバーツーリズムで環境破壊などが進む観光地を発表しました。フランスからはノルマンディー地方の風光明媚なエトルタ(les falaises d’Etretat)と、南仏マルセイユ近郊のカランク国立公園(Parc national des Calanques)が選ばれています。
風光明媚なエトルタ、天気が良いと2月から観光客が殺到
冬が長く寒い欧州ですが、フランスは2月に入り日が長くなってくると、パリから200km、車で片道3時間程度で行けるエトルタには観光客がどっと押し寄せてきます。
エトルタは石灰質の白い断崖が続く海岸線に、波が侵食してできた巨大な「象の鼻」のような断崖が突き出している光景で知られ、印象派など多くの画家たちが作品にしています。
特にクロード・モネ(Claude Monet)は、『エトルタのマンヌポルト』(La Manne-Porte, Étretat)『エトルタの夕焼け』(Soleil couchant à Etretat)など、連作を多数残しています。
この美しい絵画のモデルになった風景を見ようと、エトルタには年間100万人もの観光客がフランス国内および世界中から訪れます。
ところが、この美しい景色に異変が起きています。
年間100万人の訪問者で落石など誘発、人数制限が必須
エトルタの数キロにわたる石灰質の断崖は年々侵食が進み、毎年20センチずつ海岸線が後退しています。
この美しい海岸線を守るために活動する非営利団体「エトルタの明日協会」(association Etretat demain)の代表、シャイ・マレ(Shaï Malet)氏は、「オーバーツーリズムはこの断崖の維持にとって大変有害なものです」と憂いています。
同氏によると、断崖の上の散歩道はあまりにも大量の観光客により踏み潰され、場所によっては陥没し、頻繁に落石が起こっています。
協会は観光客の人数を減らすことが急務とし、「1日あたり訪問できる車の数を5000台までに制限すべきだ」と主張しています。
南仏カランクの海岸、人数制限をすでに導入
南仏マルセイユからバスでも30分ほどで行けるカランク国立公園(Parc national des Calanques)も、大量に押し寄せる観光客で環境破壊を始めとする多くの問題が起こっています。
カランクは断崖絶壁の岩に囲まれた入江が続く海岸線と、目の覚めるような青い海とのコントラストの美しさで知られ、また入江にできた小さな砂浜で海水浴やボート遊びなどができることから、特に夏はたいへん人気の高い観光地です。
近年、この風景が「インスタ映え」としても知られるようになってから、夏に限らず多くの観光客が世界中から訪れています。
観光客は険しい岩の細い道を通るか、ボートで海から直接入江にアクセスします。
入江では猫の額ほどの白浜にところ狭しと観光客が寝そべり、入江の周りにデコボコと突き出す岩壁に登って海に飛び込んだりしています。
カランク国立公園には140種の保護された動植物、60種類もの海洋遺産がありますが、大量の観光客によりこれらの生態系が危機的な状況に晒されています。
またエトルタ同様、断崖侵食が加速している中、同じ原因で落石などが多発しています。
シュジトン入り江、アクセス1日400人に
そのため昨年の夏、海岸線にある入江の一つ、シュジトン入り江(calanque de Sugiton)へのアクセスに、夏の間一日400人の入場制限が導入されました。
その結果、導入直後から変化が現れています。
人の足で踏み潰されて固くなっていた地面から、新しい草の芽が出てくるといった現象が見られるようになったのです。
「もしこのまま大量の観光客を受け入れ続けていたら、カランクは景色が美しいだけで、環境保全としての価値はなくなっていっただろう」と関係者はコメントしています。
「デ・マーケティング」で観光客の意欲を下げる
人数制限を導入しただけでなく、カランク国立公園はオーバーツーリズムの解消策として、近年注目を浴びるマーケティング手法「デ・マーケティング」(Demarketing)を利用して、観光客の訪問意欲を下げる試みが行われています。
カランクのオフィシャルサイトでは、「ビーチの数はわずか、設備は整っておらず、入り江へのアクセスは険しく、夏は大混雑」と宣伝?しています。
執筆:マダム・カトウ