フランス会計監査院(Cour des comptes)は、大統領官邸が昨年一年間、ブリジット・マクロン(Brigitte Macron)大統領夫人のために使った費用を発表しました。
人件費だけで年間3600万円の推定
会計監査院は、2017年に大統領官邸(通称:エリゼ宮, palais de l’Élysée)の運営にかかった費用を発表、その内訳の一部として、大統領夫人のために使った費用を、推定278,750ユーロ(約3600万円)と発表しました。
ただし、この金額には、大統領夫人のために働く職員などの人件費しか含まれていません。
4人のフルタイムの職員
大統領夫人自身は給与を受け取っていませんが、4人の職員をフルタイムで雇っています。内訳は夫人の執務室長と事務担当者、2人の秘書です。2人の秘書は、夫人の活動、つまり著名人との面会、イベント参加や大統領公務に付き添う訪問などをオーガナイズしています。
エリゼ宮内の東翼(l’aile est)は 、おもに大統領夫妻のプライベートスペースですが、通称マダムの翼(l’aile madame)と呼ばれ、その中に大統領夫人自身の執務室である青のサロン(Salon Bleu:写真)、及び4人の職員の執務室、警備員室など合わせて6つのオフィスがあります。
また、大統領と大統領官邸の警備にあたる、憲兵隊の特殊部隊GSPR (Groupe de sécurité de la présidence de la République) のうち2名が、大統領夫人の警備も担当しています。さらに、夫人の移動用に2台の専用車(うち一台は警備員用)があてがわれています。
年間13000通の手紙の返事に7名
エリゼ宮には、ブリジット・マクロン大統領夫人宛てに年間約13000通の手紙が来ますが、大統領官邸付け書簡係り71名のうち。6~7名が専任でその返事を担当しています。
計上できていない費用
今回発表になった推定費用に計上されていないのが、大統領に同伴する公務の際の夫人のメークアップやスタイリスト代、洋服代です。費用は大統領の予算から出されていますが、少なくとも夫人が公務で着用する服やバッグはすべてルイ・ヴィトンから無料で貸し出されています。
フランス大統領夫人の「コスト」計算ができない理由
会計監査院が大統領夫人のために使った費用を明確にできない理由として、フランスの大統領夫人の位置づけを挙げています。そもそも、大統領夫人は選挙で選ばれた大統領の伴侶というだけで、明確な位置づけも法規定もありません。
フランスで大統領夫人を指す場合に使われる、プルミエール・ダム(Première dame)という名称は、元々アメリカの大統領夫人を指すファーストレディ(First Lady)のフランス語訳で使われていたものが、いつの間にかフランスの大統領夫人にも使われるようになったにすぎません。
よって、大統領官邸の運営予算の中に、大統領夫人の為の予算がありません。
アメリカのファーストレディとの大きな違い
アメリカのファーストレディも、選挙で選ばれていないため給与などはありませんが、ホワイトハウスの主「ホスト」と位置づけられ、大統領と同伴もしくは不在時はその代理としてホワイトハウスの行事を行うなど、その地位は公に確立し、国民の間でも受け入れられているといえます。
アメリカの大統領官邸、ホワイトハウスには、ファーストレディ・オフィス(Office of the First Lady)と呼ばれる専属のチームが、大統領オフィス(White House Office)内に正式な形で存在し、毎年の予算が確保され、社会的な活動や公的な行事へ参加をすることが慣例となっています。
この予算がないフランスでは、大統領の予算のなかでやりくりされた夫人のための費用が明確にできていません。国民の中で「プルミエール・ダム」に対する思い入れが薄いフランス国民に、夫人用の「予算」を受け入れさせるのは簡単ではなさそうです。
執筆:マダム・カトウ
画像出典元:Wikipedia