2025年12月23日(火)、クリスマスを目前に帰省ラッシュが始まる一方、今日から気温がぐっと下がり路上生活者にとってはとりわけ厳しい時期になりました。そんな中、オフィスの会議室を終業後と週末にホームレスに提供する企業があります。
オフィスの使用率は30%、住宅難でホームレス35万人
NPO法人「ビュロ・デュ・クール」(ハートのオフィス:Bureaux du Cœur)は、社会復帰をめざすホームレスに、期間限定で平日の終業後と週末に企業のオフィスでの宿泊を提供する活動を5年前から行っています。
今年1年だけでも500人のホームレスが、公営住宅や一般のアパートを見つけるまでの間、この仕組みの恩恵にあずかっています。
このNPO法人は「オフィスの使用率は約30%に過ぎず、あとの時間は空いています。一方、フランスには推定で35万人もの人が路上生活を送っています」と、現状を語っています。
平日14時間と週末限定、企業の会議室で暮らすホームレス
パリ9区にある投資コンサルタント企業セヴンストーン社は、8カ月前から25歳のソマリア人、イスマエルさんに会議室を提供しています。
同社の三階建てのオフィスで、日中は十数人の社員が働いていますが、8カ月前から、19時を過ぎると同社の会議室はイスマエルさんの寝室になっています。さらに、オフィスにあるキッチン、トイレ、シャワーも利用することができます。
それ以前、5カ月間路上生活を送った彼は、この仮住まいの提供がいまだに信じられないという様子で、「路上生活は本当につらかった。今は自宅にいる感覚でとても心地よい、ハッピーです」と、語っています。
セヴンストーン社の投資アナリストで、このプロジェクトの社内提唱者レオ(Léo)さんは、「路上生活を強いられている人がたくさんいるのに、この事務所は平日の夜、週末は誰も使っていません」と、NPOの活動に共感し、さらに「準備はいたって簡単です」と述べています。
トイレやキッチン、シャワーブースをすでに備えている同社では、会議室に簡素な収納付きソファーベッドと掛け布団などを用意しただけです。
今年の年初からすでに3人のホームレスがこの仕組みを利用して同社に宿泊しました。
社員が率先して推進、「招待客」に履歴書作成のお手伝いも
「招待客」と呼ばれる利用者には、一定のルールを守ることが条件になっています。
まず、朝9時前に同社を出ること、そして社員のオフィスがある上の階にはいかないこと、などです。
レオさんは「お互いの信頼関係の上で成り立っている」ので、鍵をかけてアクセスを制限したり、監視カメラなどはつけていませんが、これまで「全く問題は起こっていない」といいます。
イスマエルさんは現在、パリ市内のファストフード店で週20時間働いています。この仕事で得る1000ユーロ(約18万円)未満の給与では、パリ近郊でアパートを借りることは不可能に近いのです。
仕事があってもホームレス
ちなみにフランスでアパートを借りるには、基本的に家賃の3倍の給与所得が必要といわれています。近年、家賃の高騰が激しい一方、給与の上昇は追いついていないのが現状です。
セヴンストーン社のレオさんは、毎週、イスマエルさんのアパートと仕事探しの進捗を確認しています。
その際に、イスマエルさんの履歴書作成も手伝っています。レオさんは「自分はこういう事が得意だし、彼が今の仕事に加え、2つ目の仕事を見つければ収入が増え、アパートを借りられる可能性が上がるから」と述べています。
協力企業社員との交流で、ホームレスの社会復帰が加速
NPO法人「ビュロ・デュ・クール」のキンダ・ガルマン(Kinda Garman)氏は、このプロジェクトに参加している企業の中では、社員が個人的にも率先してこのプロジェクトに関わっていることが多く見受けられる、と言います。そして、このように社員が社会貢献に参加するというのは「非常に重要なこと」なのです。
同氏曰く、「路上生活者にほんの短い期間、安定した住居を与える」にすぎないこのプロジェクトは、ホームレスが社会復帰するためのほんの一部分でしかありません。にもかかわらず、このプロジェクトの恩恵を受けることで、多くの場合ホームレスの「社会復帰が一気に進む」のです。
「招待客」となったホームレスがこの仮住まいを利用する平均期間は4カ月半です。
オフィス住まいの基本条件は3か月、1ヵ月の延長が一回だけ可能です。ただし大都市、特にパリ及び近郊など住宅事情が非常に悪いところに関しては、最長9カ月までの猶予があたえられています。
フランス36都市に350の参加企業、中小企業も
同NPOの活動はフランス36都市以外に、スイスのローザンヌ、ベルギーのブリュッセル、ポルトガルのリスボンなど合計40都市で行われ、参加企業は350社ほどあります。
大企業だけではなく、精神科医のオフィスなど、小規模の企業も参加しています。
企業にとって、このプロジェクトへの参加はいたって簡単です。
ソファーベッドは中古でも買えるし、社員が不要になった布団やランプを持ち寄るなど、準備にはほとんど経費がかかりません。
保険でリスクヘッジが可能
ガルマン氏は、ホームレスに宿泊を提供することは、本来「民間企業の役割ではない」ことを認めつつも、住宅事情の改善が遅々として進まず、緊急用の短期宿泊所の不足解消が進むのを待つ間の、やむをえない措置の一つ」だと述べています。
参加企業は、万が一に備え、事務所にかける保険に、このプロジェクトに参加する際のリスクヘッジを無料で追記することができます。
執筆:マダム・カトウ













