前回の記事では、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)の説明と、そこで強調されるタスク中心型学習についてみてきました。DELF/DALF試験の基盤にもなっているCEFR。この中で重要とされているのが、言語を使って「行動」する力、つまりタスク中心型の言語能力でした。
今回は、タスク中心型の言語能力の中で、フランスでは特に必要なタスクと言われる、「自己弁護」についてみていきたいと思います。
自己弁護とは?
「自己弁護」とは、何か困ったことが起こった際に、自分で自分を守ること。具体的には、相手に抗議したり、自分の状況を論理的に説明したり、解決に向かって道筋を提示したりすることを指します。
まだ日本にいた頃、フランス語を教わっていた先生に「フランスに行くならここは特に大事!」と言われた教科書の項目が「Protester(抗議する)」、「contester(異議を唱える)」等の自己弁護のための項目でした。その時は「そんなものかな」と思った程度でしたが、フランスに住んでみて「先生の言ったことは本当だった…!」と痛感する日々です。
なぜ自己弁護が大事なのか
フランスではたとえスーパーのレジであっても、日本のように「お客様第一」で配慮してもらえることはほとんどありません。これが公的機関の窓口なんかになるともっと大変。納得いかない点があれば自分で抗議をし、解決まで持っていく必要があります。
その際よく言われることですが、フランス人はたとえ自分に非があっても、すぐに謝るということをしません。彼らはまず、この失敗は自分のせいではないことを主張します。あるいは何か別の人や物のせいにして、自分は悪くないことをアピールします。例えば、書類に不備があったのは前の担当者のせい、といったように。
これは、フランスで重要な自己弁護の手段なのです。日本のようにとにかく謝って、その場を丸く収める行為は、むしろ自分の立場を危うくしかねません。ここに日本とフランスの文化差が顕著に現れます。
具体的な学習方法
自己弁護の術を学ぶための有効な学習方法は、なんと言ってもフランス語で実際に交渉してみること。とはいえ、そんな場面はなかなかありません。そこでおすすめなのがロールプレイです。
私自身、語学学校やプライベートレッスンで、様々な場面を設定してロールプレイをしました。
例えば、DELF B1のオーラル試験を想定したこんな問題がありました。
あなたはフランスでアパートを買いました。
ところが毎日早朝に、隣の部屋のラジオの音、子どもの走る音、ピアノの音で起こされるようになりました。改善してもらえるよう隣人と話し合いましょう。
あなたはフランスでキャンプに行きました。
キャンプ場を出る時にお金を払おうとして、財布を落としたことに気づきました。
キャンプ場の管理人に事情を説明しましたが、管理人は、お金を払わなければキャンプ場を出られないと言います。解決策を提示して管理人を説得しましょう。
いかがですか?この問題例を見るだけでも、いかにフランス語で自分を守る力が重視されているかがわかりますね。
上記のようなロールプレイで大切なのは、まず自分の立場や意見をはっきりと主張することだと言われます。その上で、相手の意見に対して、Mais (でも)〜、Common?(今なんと?)、Je ne comprend pas.(よくわかりません)のような言葉を足がかりに、とにかく食い下がってみることが必要です。相手を説得できるよう論理的に文章を組み立てる練習をすることによって、自分を守る言葉や態度を身につけていくことができます。
まとめ
フランスで生きていくために必要な自己弁護の力。フランス語で相手を納得させるには、どう言えばいいのか。論理的に考える習慣をつけることで、言葉の上達だけでなくフランス流の考え方も鍛えられます。
ロールプレイは、数人で受ける語学学校の授業よりも、Skypeレッスン等のマンツーマンのレッスンの方が断然有効です。もし既にskypeレッスンを受講中なら、次回はあえて少し困った状況を設定したロールプレイに挑戦してみてはいかがでしょうか!
執筆 Nahoko