日本人はノーが言えない文化だとよく言われます。一方、海外ではノーが言えなければ、とても困った事態になります。それはフランスでも同じです。そして、その違いは既に幼児の頃から存在することをご存知でしょうか?
幼児が最初に覚える言葉
親をまねて言葉を覚え始めた日本人の幼児が、最初に話すのは次のような言葉です。
・「ありがとう」
・「どうぞ」
対して、フランスの幼児が最初に覚える言葉は“NON”。
「この違いが両者の文化の違いをとてもよく表している」と日本人の友人と笑い話になったことがあります。フランスへ渡ったばかりの頃の私はこの違いについて「遠慮がちな日本人の性質」と「自己主張の強いフランス人の性質」としか捉えていませんでした。
ところがフランスで子育てをしていると、この“NON”の裏にはもっと大切な文化が隠されていることが分かりました。
“NON”は自分を守る言葉
実は、フランス語の”NON”は何よりも自分の権利を守るための言葉なのです。
日本の保育園では、園児がお友だちのおもちゃを無理やり取ろうとしていたら、おそらく保育士さんが、おもちゃを取ろうとしているお友だちを止めに入ることと思います。先におもちゃで遊んでいたお友だちはそのまま遊び続け、おもちゃを取ろうとした お友だちは「それはいけないことだよ」と保育士さんから教えられることでしょう。
フランスの保育園では少々事情が違います。フランスの保育士さんはすぐさま駆けつけて、喧嘩にならないようにするのではなく、まずはおもちゃを取られそうになっている子どもに”NON”(やめて)と意思表示するように教えます。まだ一歳にもなっていない幼児に対してです。それでも事態が収拾しない場合にのみ駆けつけて、おもちゃを取ろうとしているお友だちを諭すのです。
こうしてフランス人の幼児が最初に覚える言葉が”NON”になるのです。自分が「納得していない」という意思を相手に言葉で伝えることが、フランス社会では幼児期から大切にされているのですね。
ときに”NON”はフランス人でも言い辛い
日本人にとって「相手と違う意見を言う」または「相手の意向を断る」というのは、とても勇気のいることですよね?実はフランス人にとっても”NON”と言うことに大きな勇気がいる場合があります。
私は子どもの本を借りるためによく図書館へ行くのですが、そこで”NON”という題名の本に出会いました。「”NON”と言うことが、ときにとても難しいこと」それでも「言うことをためらってはいけない状況がある」ということを小学生や中学生くらいの子供に教えるための本でした。
“NON”と言うことを躊躇してはいけない状況、それは例えばこのようなときです。
・友だちや兄弟にからかわれたとき。
・大人からハラスメントを受けそうになったとき。
・お友だちからタバコやアルコールなど、自分がしたくない不良行為に誘われたとき。
・大人から理不尽な理由や方法で怒られたとき。
このようなときは「泣き寝入りするのではなく、相手にその行為を止めるように”NON”と言いましょう」という内容です。「もし、”NON”と言いたい気持ちをうまく表現できなかった場合には、信頼できる大人にその気持ちを伝えましょう」というアドバイスも書かれてありました。
フランス語の”NON”の意味を深く知ると、単なる文化の違いでは片付けられないものを感じるのでした。
執筆:マナミ