
フランスのボルドー地方は、世界を代表する赤ワインの産地です。そしてボルドーといえば、力強い赤や長い熟成を経て楽しむ特別な一本というイメージがあります。
しかしこの地方で造られているのは赤だけではありません。爽やかな辛口の白、上品な甘さを持つ貴腐ワイン、ロゼや発泡性ワインまで、実はさまざまなスタイルのワインがあります。
そして、その多様さを生み出しているのが、ボルドーを流れる二つの大きな川。川の左右で土壌が変わり、育てられるブドウも変わるのです。さらにその川は、かつてボルドーワインを海の向こうへ運ぶ交易路でもありました。今回は川が育んできたボルドー地方とそのワインについてお話しします。
二つの川と港町が育てたワイン文化
ボルドー地方はフランス南西部、大西洋へとつながる二つの川の流域に広がっています。
南から流れてくるガロンヌ川(Garonne)と東から流れてくるドルドーニュ川(Dordogne)はボルドー市の北で合流し、やがてジロンド河口(Estuaire de la Gironde)となって大西洋へ注ぎます。
ボルドーワインを語るとき「左岸」「右岸」という言葉をよく耳にします。これはこの川や河口を下流に向かって見たときの左右を指します。左岸はガロンヌ川の南西側、右岸はドルドーニュ川の北側にあたります。
左岸の代表がメドック(Médoc)です。マルゴー(Margaux)やポイヤック(Pauillac)など、世界的に知られるワイン産地が河口沿いに並んでいます。右岸には、中世の町並みでも知られるサン=テミリオン(Saint-Émilion)などがあります。
そして、ガロンヌ川とドルドーニュ川に挟まれた地域が「アントル=ドゥー=メール(Entre-deux-Mers)」。フランス語で文字通り「二つの海の間」という意味ですが、ここでいう「海」は二つの川を指しています。
イギリスとの交易で栄える
ボルドーが世界的なワイン産地になった背景には、この川と港の存在がありました。
12世紀、ボルドー地方の領主だったアキテーヌ女公アリエノール(Aliénor d’Aquitaine)が、のちに英王ヘンリー2世となるノルマンディ公アンリ2世(Henri II duc de Normandie)と結婚すると、ボルドーとイギリスとの関係が深まりました。ワインはガロンヌ川を通ってボルドー港へ運ばれ、そこから船でイギリスをはじめとする北ヨーロッパへ輸出されていきます。
その後もワイン交易は発展し、ボルドーは重要な港町として繁栄しました。現在の市街地に残る壮麗な18世紀の建築や河岸の景観にも、交易によって栄えた都市の歴史を見ることができます。

気候は大西洋の影響を受ける海洋性です。冬は比較的穏やかで、夏も南仏の内陸部ほど極端に乾燥しません。
一方で雨や湿度、収穫前の日照量などによってブドウの出来が左右されるため、年ごとの違いも生まれます。そこでボルドーでは、性格の異なる複数のぶどう品種を組み合わせてワインを造る文化が発達しました。この「ブレンドすること」を、フランス語でアッサンブラージュ(assemblage)と呼びます。
ボルドーワインの特徴:左岸と右岸で何が違う?
ボルドーワインを初めて知るなら、まずは「左岸と右岸で中心となるぶどうが違う」と覚えると分かりやすいでしょう。
左岸のメドックなどでは水はけのよい砂利質の土地が多く、赤ワイン用のブドウ品種であるカベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)が重要な役割を担います。
このブドウ品種から造られるワインは、カシスなどの黒い果実を思わせる風味と、しっかりした渋みが特徴。若いうちは力強く感じられますが、時間をかけて熟成すると、果実だけでなく革や葉巻、森を思わせるような複雑な香りが現れることもあります。
一方、右岸のサン=テミリオンやポムロール(Pomerol)では粘土や石灰岩を含む土地が多く、中心となる品種はやはり赤用のメルロー(Merlot)です。メルローはプラムや熟したサクランボを思わせる豊かな果実味と、比較的やわらかな口当たりが特徴です。
実は白ワインも
ボルドーといえば赤ワインというイメージが強いかもしれませんが、白ワインも忘れてはいけません。
爽やかな辛口白では、主にソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)とセミヨン(Sémillon)が使われます。ソーヴィニヨン・ブランは、レモンやグレープフルーツ、ハーブを思わせる爽やかさを、セミヨンは、より丸みのある口当たりや厚みをワインに与えます。
二つの川に挟まれたアントル=ドゥー=メールでは、食事にも合わせやすい軽快な辛口白が造られています。
さらにボルドー南部のソーテルヌ(Sauternes)は、世界的に知られる甘口白ワインの産地です。ここでは「貴腐」と呼ばれる現象によって水分が抜け、糖分や香りが凝縮したブドウを使います。出来上がるワインは蜂蜜やアプリコットを思わせる豊かな甘さを持ちながら、酸があるためただ甘いだけではありません。
このほか、シャンパーニュと同様に瓶の中で二回発酵させて造る「クレマン・ド・ボルドー(Crémant de Bordeaux)」という発泡性ワインもあります。
ボルドーワインと地元料理のペアリング
ボルドーの赤ワインに合わせたい代表的な料理が、ボルドー風牛リブロース(Entrecôte à la bordelaise)です。厚切りの牛肉を焼き、赤ワインやエシャロットなどを使ったソースを添えます。肉の脂とうま味を、メドックなどの赤ワインが持つ渋みと酸が受け止めます。

ボルドー地方の西部は大西洋に面しています。そこで味わいたいのが、アルカション湾(Bassin d’Arcachon)の牡蠣。牡蠣には赤ワインではなく、アントル=ドゥー=メール地区などの辛口白ワインがおすすめです。ソーヴィニヨン・ブランの柑橘類を思わせる爽やかさが、牡蠣の塩気や磯の風味によく合います。また、クレマン・ド・ボルドーを合わせれば、泡が口の中をすっきりとさせてくれます。

ボルドーのおすすめポイント
シテ・デュ・ヴァン(La Cité du Vin)
ボルドー市内でワイン文化に触れるなら、まず訪れたいのがこのワイン博物館。ガロンヌ川沿いに立つ、独特な曲線を描いた建物そのものも目を引きます。
館内ではワインの歴史や世界各地の産地、香り、醸造、食や芸術との関係などを、映像や体験型の展示を通して学ぶことができます。香りを実際に嗅いだり、映像を見たりしながら楽しめる展示も多いため、ワインに詳しくない人にもおすすめです。
サン=テミリオン(Saint-Émilion)地区
ボルドー市外へ足を延ばすなら、ぜひ訪ねたいのがサン=テミリオン地区です。石造りの町と、その周囲を取り囲むぶどう畑が一体となった文化的景観は、ユネスコ世界遺産に登録されています。坂道の続く町を歩けば、中世の建物や地下教会が現れ、町を抜けるとすぐにぶどう畑が広がります。
メドック・マラソン(Marathon des Châteaux du Médoc)
ボルドーの「格式高いワイン産地」というイメージを、少し楽しく裏切ってくれるのがこのイベント。例年9月上旬に開催され、参加者は仮装して、メドックのシャトーやブドウ畑の間を走ります。
沿道ではワインの試飲や地元の食が用意されるなど、一般的なマラソンとはかなり異なる雰囲気。スポーツ大会でありながら、ワイン、食、風景を一緒に味わう、フランスらしい陽気さを感じられるイベントです。
終わりに
「左岸」「右岸」と聞くと、少し難しく感じるかもしれません。しかしその違いを知ると、ワインの向こうに二つの川やブドウ畑、港町の歴史、そして地元の食文化が見えてきます。
異なる地区のワインを飲み比べたり、土地の料理と合わせたりしながら、自分なりのボルドーを見つけてみるのも楽しみのひとつ。ワインは、この地方を知るひとつの入口になってくれます。
執筆 Quiyo(キヨ)












