フランスのお勧めはなに?と聞かれるとき、美術館や歴史ある建築の他に、美しい街並みや広大なワイン畑などの景色がすぐに頭に浮かびます。これらはフランスの魅力の1つです。地図シリーズ前編で、フランスの六角形の形とパリのゼロポイントについて紹介しました。
前編:ニュースでよく見る “L’Hexagone” って何?フランス=六角形の理由とゼロポイント
今回は、あまりガイドブックでは紹介されていない「空虚の対角線(Diagonale du vide)」を紹介いたします。フランスの別な魅力を発見したい方は是非最後まで読んでくださいね。
「空虚の対角線」とは?
フランスの地図で北東のアルデンヌ地方から、南西のピレネー山脈へ延びる一本の軸またはゾーンが「空虚の対角線(Diagonale du vide)」と呼ばれています。
Chat GPTで作成
ここは、他の地域に比べて建造物や人口もまばらで、人口密度は40人/k㎡ほど。都市も存在しますが、森林や牧草地、農地といった広大なスペースが目立ちます。パリの人口密度20,000人/k㎡と比べるといかに少ないかがわかります。
| 地域・エリア | 該当する県名 | 特徴 |
| 北東部・東部 | アルデンヌ(les Ardennes) ムーズ(la Meuse) オーブ(l’Aube) ヨンヌ(l’Yonne) オート=マルヌ(la Haute-Marne) オート=ソーヌ(la Haute-Saône) |
森と広大な農村風景が広がるエリア。 ステンドグラスやアンドゥイエットと呼ばれるソーセージ料理が有名な街、トロワ(Troyes)があります。 |
| 中央部 | ニエーヴル(la Nièvre) シェール(le Cher) アンドル(l’Indre) アリエ(l’Allier) |
フランスの「へそ」とも言われる内陸部。広大な農地と中世の修道院が残るエリア。 フランスの最も美しい村に登録されているサン=ブノワ=デュ=ソー(Saint-Benoît-du-Sault)、アプルモン=シュル=アリエ(Apremont-sur-Allier)などがあります。 |
| 中央高地 | クルーズ(la Creuse) コレーズ(la Corrèze) カンタル(le Cantal) ピュイ=ド=ドーム(Puy-de-Dôme) オート=ロワール(la Haute-Loire) ロゼール(la Lozère) アヴェロン(l’Aveyron) アルデシュ(l’Ardèche) |
火山群や険しい渓谷が続くエリア。 黒い大聖堂で有名な街、クレルモン=フェラン(Clermont-Ferrand)や、自然にできた美しいアーチのポン=ダルク(le pont d’Arc)などがあります。 |
| 南部・南西部 | ロット(le Lot) ドルドーニュ(la Dordogne) タルヌ=エ=ガロンヌ(le e Tarn-et-Garonne) ジェール(le Gers) ランド(les Les Landes) オート=ピレネー(les Hautes-Pyrénées) アリエージュ(l’Ariège) |
スペイン国境へ向かうエリア。 深い谷の崖に沿って建物が並ぶ美しい街、ロカマドゥール(Rocamadour)や、洞窟壁画で有名なラスコー洞窟(la grotte de Lascaux)などがあります。 |
※県名のカタカナ表記は検索しやすいようにWikipedia日本語版に準じて記載しているため、実際の発音と違う場合があります
空虚の対角線に該当する地域は1850年には2,700万人以上が農村で暮らしていましたが、1870年以降、村の住人たちは都市へと移住し始めました。
その背景には
災害と産業: 19世紀末のブドウの害虫(フィロキセラ)によって多くのブドウ農家が土地を離れました。そして工場の都市集中化によって雇用不足になり若者たちは仕事のある都心部へと流れていきました。
利便性の格差: 大都市における充実した公共サービスや文化・スポーツ施設、そして高等教育へのアクセスの良さに対する農村部との格差の広がりも理由として挙げられます。
一部の地域でみられる人口の回帰
この空虚の対角線の地域では、人口密度は未だ低いままですが、一部の地域では、フランス人やヨーロッパ人の退職者が老後を過ごす土地として選んでいます。
またネオ・リュラル(le néorural / les néoruraux、新農村住民)と呼ばれる人々の存在も忘れてはなりません。彼らは、拠点を都市に置いたままテレワークをする人たちとは異なり、都市での活動を断絶し、農業や宿泊業を始める傾向にあります。彼らは経済的な機会をもたらしてくれるため、雇用危機にある地域にとって非常に重要な存在となっています。
私の友人カップルも最近、「建物に囲まれる生活より、自分たちで生活をクリエイトしたい。」と自分の陶芸教室を閉めて、パートナーは会社に転勤願いを出し、フランスの南西部に引っ越しをしていきました。
作家シルヴァン・テッソンが歩いた” 黒い道 “
空虚の対角線の存在を知らなかった私は、周りのフランス人たちがこのエリアをどの位認知しているのかに興味が湧き、会話の話題にしたことがあります。その結果、地理的に人口密度が少ない場所という認識を持っている方がほとんどでした。
「空虚の対角線についての本があるよ。」と友人に教えてもらい、小説『黒い道』の存在を知りました。
過疎地という認識が持たれている空虚の対角線に注目をしたフランスの人気の冒険作家、シルヴァン・テッソン(Sylvain Tesson)が、このエリアを実際に歩いて書き上げた小説です。
空虚の対角線に対する視点が面白いと感じたので簡単に紹介します。
小説『黒い道』(Sur les chemins noirs)
著者:シルヴァン・テッソン
あらすじ:著者は泥酔による建物の外壁からの転落事故で生死を彷徨う程の重傷を負い、一命を取り留めたが重い後遺症が残りました。リハビリとして彼が選んだのは、病院の廊下を歩くことではなくフランスを南東から北西へと縦断する旅。
彼は、現代の喧騒やデジタル化された社会から離れ、あえてこの「影の道」を徒歩で行くことで、自分自身と向き合っていきます。

タイトルの『黒い道』とは地図上に記されている、舗装されていない古い田舎道や、忘れ去られた細い小道のこと。
テッソンは、地図上の目立たない小道をたどりながら、「現代社会の喧騒から逃れ、真の自由を見つける場所は、地図の余白の中にこそ残されているのだ。」と悟ったのかもしれません。
2016年に出版され評判になり、23万部を売ったベストセラー小説となりました。単なる紀行文にとどまらず、本人の体験したドン底からの再生の物語、デジタル社会へのメッセージとして多くの読者を惹きつけたといえるでしょう。
この小説は2023年にフランスで映画化、公開されたことにより本を読まない層にも『黒い道』が認知されました。
映画予告
https://youtu.be/xNd4PHNurjo?si=0aDt7sg0LS5xvEZA
まとめ
空虚を余白という視点からとらえると、フランスの過疎化した地域の良さも見えてきます。利便性に欠けるからこそ、現代のデジタル社会から距離をおける自由があるともいえるでしょう。テッソンの本は、まだ日本語訳は出版されていませんが映画を通してこのエリアの雰囲気や風景を疑似体験するのも面白いかもしれません。
執筆 YUKO












