2024年7月8日(火)、前日の6日(日)に国民議会選第二回投票が行われ、左派連合(Nouveau front populaire)が180議席で勝利しました。第一回選挙結果から過半数を取る勢いとされた極右、国民連合党(Rassemblement national:RN)は、マクロン大統領のルネッサンス党(
が形成する中道連合アンサンブル!(Ensemble!)に次いで3位に終わり、フランス国民は極右反対の意思表示を明確にしました。一方、過半数を取った政党はなく、連立を探る動きもでていますが、新内閣の形成は容易ではなく政治の混迷が続きそうです。
極右、やはり差別主義が見え隠れ、国民は反対票で第一党ならず
国民連合党は第一回投票での大躍進から選挙キャンペーンを率いたバルデラ(Jordan Bardella)党首は、「過半数を取って私が首相になる」など勝利宣言とも思われる発言をしていました。
同党は、その前身でルペン氏の父が創設した国民戦線(Front National:FN)党の人種差別主義を公言する過激なイメージを払拭し、「フランス人優先」を打ち出すなどで移民系フランス人を含む幅広い支持を獲得していました。
しかしながら、選挙公約実現のための財源確保は不透明、2重国籍者の重要な公職からの排除、環境問題への取り組みは皆無といった、外国人排除や期待されたインフレ対策の中身の薄さや実現性の低さ、28歳のバルデラ氏の首相就任発言から不安をあおり、同党支持層以外の票を取り込めなかったこと、さらには一部の候補者の差別発言も重なり、投票日直前には過半数は無理と予想されていました。
左派勝利は、作戦勝ち?
一方国民連合党は、第二回投票の左派の勝利に対し、左派連合、中道および右派保守が「極右阻止」を国民に強く訴え、第一回投票で多くの3位候補者が、立候補辞退により極右以外の政党に投票するよう促した戦略的な勝利で、民意を表していないと批判しています。
極右も嫌い、極左も嫌い、マクロンも嫌い
フランス語で「~も~も(ない)」(”ni~, ni~”)という表現がありますが、「極右も極左もいや」だという国民は非常に多く、今回の選挙では、極右を阻止するという理由で、本来右派保守党支持にもかかわらず、社会党や極左党の候補者に投票する、あるいは投票したい候補者が誰もいないのに極右反対だけのために投票した、という苦渋の選択を強いられた有権者が多くいたことを忘れてはなりません。
極右だけでなく、極左、不服従のフランス党の創設者、過激な発言で傲慢なイメージのジャン=リュック=メランション(Jean-Luc Mélenchon)氏、エリートの味方色が拭えず、年金改革でさらに国民の嫌われ者になったマクロン大統領の二人も「耐えられない」という有権者が多数いることは事実です。
反対投票にうんざり
2022年、当時すでに不人気だったマクロン大統領の再選の時も、決選投票の対抗馬はマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)氏でしたが、フランスの有権者は極右の大統領誕生に反対すべくマクロン氏に投票しています。
今回も「またか」という気持ちで投票した有権者がいつまでも協力してくれるとは限らないということを肝に命じるべきでしょう。
開票結果発表の際、左派、中道政党の代表者は「自分の信条に反して投票してくれた有権者に感謝」の意を述べています。
極右支持の民意、政治に反映すべきのワケ
今回の選挙結果を見ると、全577議席の内訳は、左派連合180議席、与党中道連合アンサンブル163議席、極右連合143議席、右派保守連合66議席、その他25議席となっています。
確かに左派連合が勝利していますが、連合を構成する党別に見ると、
1)極右、国民連合党126議席(RN)126議席
2)与党、ルネッサンス党(
)98議席3)極左、不服従のフランス党(
)71議席4)社会党(
)64議席5)保守、共和党(
)39議席6)中道、モデム党(
)34議席7)左派連合、エコロジー党(
与党ルネッサンス党は、今回大幅に議席数を落としましたが、アタル首相(Gabriel Attal)が選挙キャンペーンを主導し予想以上に健闘したと言われています。
しかしながら、解散前は88議席にすぎなかった国民連合は今回の選挙で55も議席を増やしています。同党単独で938万人の有権者の支持を得ていることから、フランス全体の有権者数4,930万人の5人に一人が同党に投票したわけです。
選挙を重ねるごとに同党は「悪いイメージ」を払拭するのに成功しており、2年後の2027年に大統領選を控え、着々と議席を増やしています。
政治アナリストの多くは、この支持層に向かい合い、民意を国政に反映する姿勢をみせないと、次期大統領選で極右の大統領が誕生するリスクが高まるとみています。
アタル首相、辞任表明も留任 次期内閣形成まで
国民議会選の第一党から新たに首相を選抜し新内閣を形成します。現首相は辞任する義務はありませんが、フランスの伝統にしたがいアタル首相は辞任の意を表明しました。
しかしながら、過半数なき国民議会での内閣形成ということやパリ五輪を間近に控え、混乱を避けるため、マクロン大統領はアタル氏に次期内閣形成まで首相に留任するよう指示しました。
フランス国民は、内閣不在のままバカンスに出かけることになる、とメディアで騒がれています。
株価、財政赤字増嫌疑でわずかに下振れ
マクロン大統領の解散宣言で一時暴落した株価は、極右、極左のいずれもが過半数を取らなかったことに好感を示しています。
とはいえ、左派連合の公約では財政赤字の大幅増が見込まれ、過半数なき内閣で政治的混乱が予想されることから、今後フランス経済が低迷するという予想がでています。
執筆:マダム・カトウ