2024年1月31日(水)、EUの厳しい規制やインフレによる飼料や肥料、光熱費の高騰で赤字に陥り、離農が加速、フランスの農業に未来はないと怒る農家たちが、規制緩和や政府の政策改善を求めフランス全土で約12,000人に及ぶ抗議デモを行っています。現在約6,000台のトラクターが各地で高速道路をブロック、パリ郊外にあるフランス最大のランジス(Rungis)卸市場に迫っています。歴代の首相が直面する、農業の存続という根深い問題に、アタル (Gabriel Attal)新政府は対応を迫られています。
作っても作っても赤字、農業で食えない農家
利益が圧迫され、農業では生活できないというフランスの農家の問題は、昨日今日に始まった問題ではありません。その証拠に1989年に約80万人だった農業従事者の数は、2020年には約39万人まで減少しています。
小規模農家が多いフランスの農家は、大手スーパーチェーンなどの値下げ圧力に晒され、これまでも薄利を余儀なくされていましたが、インフレや昨年の干ばつによる水不足、頻繁に起こる自然災害、厳しいEU規制による設備投資など、生産コストは増加の一途をたどっています。
にもかかわらず、買取価格が上がらず、多くの農家は慢性的な赤字に陥り事業の継続が困難になっています。
農家の怒りを鎮静するため、アタル首相は農家へ赴き、農業従事者への支持や一時的な支援金の緊急配布を表明しましたが、多くの農家たちは「付け焼刃」の対策だと抗議デモの継続を表明しています。
農家にはフランス政府やEUからの様々な補助金があるものの、フランス農業の存続がかかった根が深い問題であることが浮き彫りになっています。
補助金で食べていきたいわけではない
農家は農業で食べていきたいのであって、「補助金をもらってやりたいのではない」というメッセージを発信しています。
アタル首相は「(政府は)農家が今後も働いていけるようにする」と声明をだすなど、誠意を見せていますが、抗議デモが鎮静化するかは今後政府が打ち出す政策にかかっています。
農家を苦しめる、仏国内およびEU規制
農業大国のフランスには、そもそも農家への様々な規制がありましたが、EUで合意される規制と合わせるとフランスの農家に義務付けられる煩雑な書類の数は増える一方です。
使用が禁止されている農薬や肥料、家畜1頭当たりの農場の面積など、こういった規制はコスト増につながります。
ところが、大手スーパーはフランス産の高い農産物以外に、厳しい規制がなく生産コストの安いEU圏外の野菜や果物も輸入し安価で販売しています。
また、同じEU圏でありながら、フランス産より安いスペイン産の農作物が大量に出回っています。
スペインは大規模農場が主流であることも価格が安い理由の一つですが、フランスの農家はスペインではEU規制がフランスほど国内で適用されていないと主張しています。
EUのグリーン・ディールとは?
2025年までにカーボンゼロを目指すEUは「グリーン・ディール」(Pacte vert)と呼ばれる、環境に配慮する農家への支援金支給という優遇策を打ち出しました。
このディールの様々な厳しい条件の一つに、耕作可能な土地の4%、あるいは3%を休閑地、または農業的環境配慮インフラ(生垣、池など)として残す農家に「追加支援金を支払う」というものがあります。
ところが、この条件を厳守しているかどうかの「重箱の隅をつつくような」厳しい審査に長い時間を要し、農家はいつまでたっても支援金がもらえません。
ポリネーターを増やせ
環境保護のためのこういったEUの様々な規定の多くは、フランス政府がある条件をクリアすれば緩和されます。
それは、自然破壊の加速とともに深刻な問題になっている「ポリネーター」と呼ばれる、蝶やミツバチといった花粉媒介者(pollinisateur)の減少を抑え、2030年までにその数を減少から増加に転じさせることです。
ポリネーターの増加は農業にとっても重要課題であるはずですが、農家といっても、従事しているのが酪農なのか小麦生産者なのか、野菜や果物生産者なのかにより要求内容は様々で、これが今回の抗議デモの鎮静化が一筋縄ではいかないことを示しています。
インフレで購買力低下、大手スーパーの買取価格据え置き
そもそも、生産コスト増に対し価格が上がらないことが農家の収入減少の原因であることは明白で、これまでも何度も問題になっていました。そのたびに農家は買取価格の設定といった実効性のある対策を政府に要求してきました。
しかしながら、政府の価格への介入は容易ではないため、議会では、農家に対し毎月1500ユーロ(約24万円/1ユーロ=約160円)を給料のような形で支給する」といった意見まで出ています。
ただ、財源をどうするかなどが不透明であることと、やはり農家が農業で生きていける政策が必要、と反対意見もでています。
農家のデモ隊は、EU本部のあるブリュッセルに抗議に向かうと発表しており、この問題はヨーロッパにも波及しています。
執筆:マダム・カトウ