2024年2月20日(火)、鉄の女( “Dame de fer” )と呼ばれる、パリのランドマーク、エッフェル塔職員が、昨日19日よりストに突入しました。インフレによる「賃上げ要求スト」かと思いきや、ストの理由は別のところにあります。組合側は「(エッフェル塔に上ることを)楽しみにしてきた観光客には本当に申し訳ない」と謝罪するも、「この重要文化財の未来のために」とストを続けています。
パリ市「ドル箱」から資金吸い上げ、ずさんな財政
エッフェル塔はパリ市が資本の99%を保有しており、公的運営会社(Société d’exploitation de la tour Eiffel :Sete)から毎年ロイヤリティーを徴収しています。
市はこれまで1,600万ユーロ(約26憶円/1ユーロ=160円)だったその額を、今後約3倍の5000万ユーロ(約81憶1,000万円)にすると通達、これに対し組合はこの増額は「到底無理」だと抗議しています。
組合CGTのメンバーで社員代表の一人、ステファン・デュー(Stéphane Dieu)氏によると、新型コロナ禍の影響による約1年間の休業で、1億3,000万ユーロ(約211憶円)の見込み収益はほぼゼロになり、さらに改修工事費用は鉛のせいで爆発的に増えたため、運営会社が必要とする年間予算は1億2,000万ユーロ(約194憶6,000万円)に膨れ上がっています。
収益はパリ市へ、エッフェル塔は「借金で資金調達」の矛盾
多大な利益を上げているにもかかわらず、エッフェル塔運営会社は想定外の1億ユーロ(約160憶円)もの借り入れによる資金調達を強いられています。
維持費の中でもっとも費用が掛かるのはペンキの塗り直しで、本来7年に一回ペンキの塗り直しが必要です。
膨大な「お化粧直し」費用、市は低く見積もり
2019年に開始したペンキの塗り替え作業は、鉛の検出で後れをとり未だ終わっていませんが、エッフェル塔の総面積25万平米を60トンのペンキで職人20人が塗り替えるこの作業に、すでにこれまで850万ユーロ(約138憶円)が費やされています。ちなみに鉛の除去はまだ全体の3%しか進んでいません。
塔が最後に塗り替えられてから14年が経過しているため、よく見ると塔のいたるところに錆がでています。また、運営に欠かせないエレベーターやレストランなどに荷物を運ぶ運搬機など、30年以上たった機材の改修は保留にされています。
勤務歴30年の組合員たちに「入社以来見たことがない」を言わせるほど、塔の老朽化が放置されています。
組合は、パリ市がエッフェル塔の維持を犠牲にしてまで5,000万ユーロを徴収しようとしていること、さらに「売り上げ見込みを高く見積もり、改修工事費用を低く見積った」として抗議のための話し合いを要求しています。
エッフェル塔の経済効果
エッフェル塔は2014年、入場者数700万人を超え、世界一入場者数の多い有料の文化遺産になりました。
昨年の入場者は630万人でしたが、塔の下まで来てエッフェル塔に上らない観光客も実に2,000万人にも上りました。訪れる人の10人に8人は外国人観光客が占めています。
エッフェル塔の収益の大部分は入場券の売り上げによるものですが、それ以外に土産屋、二階にあるシェフ、ティエリー・マークス(Thierry Marx)氏監修の「マダム・ブラッセリー」(”Madame Brasserie”)、三階にはフレデリック・アントン(Frédéric Anton)氏によるミシュラン一ツ星レストランのジュール・ヴェルヌ(”Jules Verne”)、ピエール・エルメ(Pierre Hermé)氏によるマカロンバー、そして最上階のシャンパンバーなど、フランスのガストロノミーを代表するレストランも貢献しています。
これらの施設の従業員も含め、エッフェル塔には約800人もの人が毎日働いています。
かけがえのない文化遺産、パリ市は目先の収入源にするだけでなく、大事にして欲しいものです。
執筆:マダム・カトウ