2022年3月29日(火)、ウクライナ戦争を受け、フランスのエネルギー規制委員会(Commission de régulation de l’énergie :CRE)会長フランソワ・カレンコ(François Carenco)氏は、このまま何もしなければ2022年の冬に確実に訪れる電力逼迫を警戒し、今から節電するように呼びけています。
ウクライナ戦争の「本格的なしわ寄せ」は今年の冬に
カレンコ会長によると、現在進行中のウクライナ戦争におけるロシアへの経済制裁の影響は今年2022年の冬に更に本格化するようです。
「このまま何もしなければ今年の冬、確実に電力が逼迫する」ため「国民一人一人が、今のうちからガスや電力を節約しなくてはならない」と警鐘を鳴らしています。
つまり、企業(製造業もサービス業も)、公共の建物、個人に至るまで全ての利用者が「空調や家の暖房の温度を下げたり、電気を消すなどの努力を今からする必要がある」わけです。
原子力発電の供給、過去最低レベル
ヨーロッパ諸国の天然ガス供給はその大半をロシアからの輸入に頼っており、ロシアのウクライナ侵攻で購入量を減らしたとはいえ今後もロシアに依存し続けることは問題視されています。
対露経済制裁で、ロシアの天然ガス依存からの脱却が急務となっています。
フランスではこれまで自国の電力の「70%程度が原子力発電」だとされ、ロシア依存脱却の影響は少ないと言われていましたが、実は総電力供給量における原子力発電の割合は大きく減り続けています。
クリーンエネルギーへの転換方針、足踏み
2019年に総発電量の約80%を占めた原子力発電の割合が、2020年には前年から11,6 %マイナスの 67%となり、2009年以来初めて発電量が63,1 GWから61,4 GW(ギガワット)に減っています。
フランスはクリーンエネルギーへの転換を図るため、2018年にマクロン政権はオランド政権から引き継いだ方針を下方修正し、2035年までに国内14基の永久閉鎖を行う方針を打ち出していました。
2020年6月にはフランス東部、ドイツの国境近くフェッセンハイム(Fessenheim)にあるフランス最古の原子力発電所の原子炉2号機を閉鎖し、1977年に稼働を開始した2つの原子炉(各900 MW)が停止されました。
仏原子力発電所、老朽化などで閉鎖相次ぎ
フェッセンハイムの閉鎖は、当初ノルマンディー地方のフラマンヴィル(Flamanville)原子力発電所に建設中の3号機の稼働を待って行われる予定でしたが、亀裂から蒸気が漏れ出るなど数々のアクシデントに見舞われたことから、やはり問題続きで建設が大幅に遅れているフラマンヴィル3号機の完成を待たずにフェッセンハイムの閉鎖が遂行されました。
フランスのクリーンエネルギーの割合は、全エネルギー供給量の20%程度で、原子力で減った供給量を補うに今のところは至っていませんが、2020年のコロナ禍で電力需要が冷え込んでいたため電力不足に陥ることはありませんでした。
ところが、2021年の春に経済活動が本格的に再開されて以来電力需要が大幅に増え、不足分を火力発電に依存していることから、昨年11月ごろから暖房需要での電気料金の上昇が問題になってきました。
加えて、今年2月後半からのウクライナ戦争により、ガスや原油の値上がりが更に加速しています。
ウクライナ戦争、終結しても電力逼迫は解消しない?
春の訪れで暖房需要などが減ったとしても、「今年の冬には再び逼迫する」とエネルギー規制委員会会長は警鐘を鳴らしています。
ウクライナ戦争で、EU内ではロシアの天然ガス依存からの脱却が急務となっています。たとえ戦争が終結したとしてもロシアへの経済制裁は続き、またロシアの脅威という教訓から別の供給ルートを確保する必要があります。
こうした事から、フランス政府は東フランスのモーゼル地方(Moselle)にあるサン=アヴォルド(Saint-Avold)火力発電所を今年の冬に再稼働させることを検討しています。
「石炭利用」火力発電も選択肢
サン=アヴォルド火力発電所は石炭を利用しているため、CO2排出量削減のため徐々に稼働率を下げ、3月31日に停止されることになっていました。
2022年の冬に例外的に再稼働させるか否かは5月に最終決定されます。
執筆:マダム・カトウ