2023年3月17日(金)、年金受給開始年齢が2年伸びるなど、フランス国民の多くが反対する年金改革法案が、昨日16日国民議会で政府により強行採択されました。ボルヌ(Élisabeth Borne)首相は、過半数を獲得できる見込みがない事から、投票直前に憲法49条3項の適用を表明し、年金改革法案を強制的に採択しました。これに対し野党議員は、国歌斉唱やヤジ、反対のプラカードを掲げて抗議し、議会は騒然となりました。フランス各地では一般市民も参加する大規模な抗議デモが行われており、組合側は今後もストを継続する意向を表明し、次は23日に予定されています。
ボルヌ首相、「強行採択の責任とる」
ボルヌ首相は16日「私はフランスの社会モデルを守りぬくべきだと思っており、議会民主主義を信じています」「私は責任をとる用意がある」と始めた演説で、憲法49条3項の適用を表明しました。
年金改革法案は、2ヶ月に渡る議論の末16日の投票当日の朝にセナ(元老院)で可決、その数時間後に国民議会で投票されることになっていました。
投票当日の午前中もボルヌ内閣は「どんな結果になろうとも投票による採決が望ましい」との意見でほぼ一致していました。
しかしながら、与党議員の一部が棄権または反対票を投じる可能性が高いなど、直前になっても可決する見込みが低いと予想されたことから、ボルヌ首相は強行採択に至りました。
民意に反し、困難な年金改革を推し進める
政府の一方的な決定とされる憲法49条3項の適用は、国民の反感を買い、抗議デモが長引くリスクが高いことから、年金改革に関してはなんとしてでも回避すべきだと言われてきました。
国民議会で過半数を持たないボルヌ政権は、これまで49条を予算など国民生活に直結しない法案のみに適用してきましたが、今回の適用で、マクロン大統領2期目の公約である年金改革を「民意に反して」推し進めたという非難を一身に受けることになります。
ボルヌ首相、不信任案で辞任のリスク
ボルヌ首相は今後、不信任案を提出されるリスクに晒されることになります。
フランスの国民議会では、不信任案を提出する議員が総議員数の10%に達した場合に投票が行われ、過半数が賛成票を投じた場合、首相は大統領に辞表を提出しなければなりません。
野党側はすでにそれぞれ不信任案の提出を表明していますが、極左、極右、共和党など保守派が入り乱れる野党議員が一致団結するかどうか、今後注目されます。
フランス国鉄スト続く、本日、明日18日、TGV3本に2本運行
昨日16日に比べ若干の改善が見られるものの、フランス国鉄SNCFストは少なくとも明日まで続きます。
TGV(Inoui、Ouigo)は3本に2本、インターシティは5本に3本、TERは2本に1本が運行、夜行列車は全てキャンセルになっています。
パリとイル=ド=フランス(Île-de-France)を結ぶ郊外線も間引きが続いています。詳しくはこちら
パリ地下鉄は平常運行、郊外線RERの一部は間引き
昨日に続きパリ地下鉄RATP及びバスやトラムは通常運行を続けています。
郊外線RERのうちA線はほぼ通常通り、B線は一部区間が3本に2本の間引きになっています。
組合側、9回目のストと大規模デモ呼びかけ、次は23日
年金法案の強行採択の発表から間も無く、フランス労働総同盟(CGT)を中心とする組合側は「民意を踏みにじった」政府に対する怒りを表明、今後も圧力をかけ続ける姿勢を崩さず、今月23日に9回目のストとデモを行うと発表しています。
執筆:マダム・カトウ