フランス大統領選挙 極右ルペンの公約「財源はどこから?」

2022.04.12

フランス 大統領選挙 2022

4月12日(火)、10日に行われた大統領選第一回投票で首位の現職マクロン氏と僅差で決選投票に残った極右ルペン氏について、「フランス人優先」や「移民排斥」といった公約を仏経済紙レゼコー(Les Echos)が分析しています。過去2回の敗因の一つである経済政策の信憑性が今回も指摘され、「ガソリンへの課税額減額」「定年を60歳に戻す」などルペン氏が「目玉」とする公約の財源確保が疑問視されています。

 

フランス人優先、外国人「合法的に差別」、治安強化

極右国民連合党の「売り」である移民対策について、ルペン氏は以下の公約を掲げています。

・国民投票を行い、移民制限強化による「フランス人優先」および国際法やEU法に対する「国内法の優先」を憲法に盛り込む
・生活保護ほかあらゆる社会扶助をフランス国籍保持者に限定
・雇用や公共住宅、低所得層向け住宅はフランス国籍保持者を優先する
・滞在許可証を保有する外国人の「家族呼び寄せ制度」廃止
・1年間就労していない外国人の滞在許可を無効に
・不法滞在する外国人、軽犯罪を含む犯罪者、イスラム過激派に認定された人は全て国外退去
・出生地主義によるフランス国籍の付与を廃止し、フランスへの「貢献度」により付与
・難民申請は海外のフランス領事館のみで受け付け

不法滞在者や難民の国外退去はこれまでも行われていますが、シリア戦争で急増した政治難民に加え、アフリカやアジアの経済難民などその数の多さから、効果には疑問の声が上がっていました。また強制退去の執行には膨大な費用がかかるため、判決が出ても全員を国外退去させることが困難な状況となっています。

また、欧州内でのシェンゲン条約加盟国間には国境がないため、フランスから退去させても陸路で再入国することが簡単にできています。

「フレキシット」はトーンダウンも

ルペン氏はブレグジットならぬ「フレキシット」(Frexit)による「国境の再構築」を推進してきましたが、コロナ禍で経済が低迷、加えてロシアによるウクライナ侵攻やインフレなどから今回の選挙キャンペーンでは言及を避けています。

ロシアのウクライナ侵攻によるウクライナ人難民に関しては「例外」と発言しています。

治安強化、警察官の「推定正当防衛」を認める

極右政党への期待が高い「治安」に関しては、

・警察官の推定正当防衛を認める
・裁判官、検察官数を倍にする
・刑務所の収容人数を2027年までに25000人分増やす
・ありとあらゆる「減刑」を廃止する

と治安厳重化を色濃く出しています。

 

購買力向上に「大盤振る舞い」、エネルギー減税、若者に所得税免除

今回の選挙においてフランス国民最大の関心事である「購買力」を大きく意識したルペン氏の公約は:

・ガソリン、灯油、ガス、電気にかかる消費税を20%から5.5%に減税
・30歳以下の若者の所得税免除
・高速道路の再国有化
・社員の給与を10%以上昇給する企業へ、社会保障費用免除

マクロン氏が公約で定年を現行の62歳から65歳に引き上げるとしている中、

・20歳未満で就業開始した人の定年を60歳か
・20歳から24歳で就業開始した人の例年を60.75歳から

にすると発表しています。

一方、「格差是正」の観点から、マクロン氏が廃止した富裕税のうち、現金にかかる資産税再導入も公約に掲げています。

さらに、

・年金額をインフレ率に連動

・最低年金額を1000ユーロ(約136,000円/1ユーロ=約136円)に引き上げ

クリーンエネルギ=は「後戻り」

・太陽光発電などへの補助金の廃止
・風力発電は廃止し、現行の垂直風車(一部で騒音が問題に)を全て解体
・原子力や水素発電に注力

農業に保護政策、国産優先

・農産物は自由貿易協定から外す
・国が主要農産物の価格設定に介入
・学校給食の80%をフランス産の食材に

健康、教育など

・5年間で20億ユーロ(約2727億円)の予算を確保、うち2億ユーロ(約273億円)を看護師の昇級に
・学校教師の給与年3%昇給
・外国人の子供への母国語教育制度の廃止

 

バラマキ財源「誰が払う?」ルペン氏の予算

ルペン氏は、フランス人の「国とお金をフランス人へ」をモットーに、「目玉」の減税や所得増加に伴う費用に対し、支出を抑えることで少なくとも68億ユーロ(約9268億円)は財源を確保できると発表しています。

費用を低く見積もり?

しかしながら、ルペン氏の数字を専門家らが検証したところ、9億ユーロ(約1228億円)とされる「定年の引き下げ」にかかる費用だけで、26億ユーロ(約3546億円)以上かかると推定されるなど、費用を低く見積もっている可能性があると指摘されています。

若年層の票を狙った30歳以下の所得税免税も2億ユーロ(約273億円)ではなく3.5億ユーロ(約477億円)、また同氏が「相殺されるからコストゼロ」だとする、10%昇給の対価となる企業への社会保障費用免除には10億ユーロ(約1364億円)以上かかることが明らかになっています。

膨大な費用を要する「エネルギー減税」についてルペン氏は「特別予算」とし、通常予算とは別枠の財源を確保すると述べています。

ルペン氏は「フランス人優先」の政策による購買力向上、外国人に支給していた社会扶助費用がなくなることで18億ユーロ(約2454億円)、脱税の査察を強化することで15億ユーロ(約2045億円)を確保できるとしていますが、いずれも専門家筋から「信憑性がない」と批判されています。

執筆:マダム・カトウ

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