オゼイユというハーブとサーモンで作った、Pavé de saumon à l’oseille
初めまして。「フランス、優雅な食物誌」という連載を担当することになりました、Megumi Saitoです。現在フランスのプロヴァンス地方に住み、アートのジャーナリストや編集者として仕事をする傍ら、語学やフランスの文化、芸術について学んでいます。今回は、この連載を始めることにしたきっかけをご紹介します。
私が語学の勉強のために初めて過ごした街は、フランスのリヨンでした。パリに次ぐ第二の都市と言われるリヨンは、その他にも「美食の街」として知られています。絹織物で栄え職人が多く暮らしていたこの街のグルメは、決して豪華ではありませんが、食材を余すことなく美味しく食べる工夫に満ちたものでした。例えば、魚をすり身にして作ったクネルや、アンドゥイエットと呼ばれる内臓を詰めたソーセージ、ポーチドエッグや鶏肝などが入った食べ応えのあるリヨン風サラダなど、日本とはまったく違う食文化を前に、毎日興味を刺激される日々を過ごしました。当時通っていた語学学校の授業でも「ガストロノミー」という言葉が盛んに取り上げられ、リヨン独自の料理について知る機会をもらったように思います。
さらに私が食文化に興味を持つきっかけをくれたのが、その時に一緒に暮らしていたホストファミリーです。70歳前半の老夫婦のアパルトマンの一室を借りていた私は、夜ご飯をその家のマダムに作ってもらっていました。そして、彼女が作るご飯のおいしさにすっかり魅了されてしまったのです。風味が豊かな乳製品を使ったポタージュたちに、ソーセージや生ハム、シブレット(ネギの一種)とレタスとヴァルサミコ酢のサラダ、そして食後に出される多種多様なフロマージュ(チーズ)の数々。まるで子どもの頃に戻ったかのように「今日のお夕飯は何かな」と、毎食毎食楽しみに夜までの時間を過ごしていました。そしてこの「食事を楽しむ」という感覚、日本にいた時は忙しない毎日に流されて、いつの間にか忘れてしまっていたなと気がついたのです。
社会人になってからというもの、食事に一番求めていたのは、作るのも食べるのも手軽であること。食事を楽しむのはたまの外食ぐらいで、日常の料理にはさほど喜びを見出していませんでした。けれど食材や調理方法、また一皿の料理の中にある「香り」「食感」「色合い」そしてそれらを包括した味わいを楽しむ心があるだけで、毎日に詩的な豊かさが生まれることを、フランスで過ごして知ったように思います。
フランスにはフロマージュだけでも1000種類以上もあるというのですから、まだまだ私の探究心は尽きません。この連載では、そうした私の興味を元に、日本とは違ったフランスの食文化についてご紹介していきます。
執筆 Megumi Saito