美食や歴史的な街並みで知られるフランス南東部の都市、リヨン(Lyon)。実は2年に一度、街のさまざまな場所で現代アートを楽しめる「リヨン現代美術ビエンナーレ」が開催されているのをご存じでしょうか。現代アートに詳しくなくても、街歩きの延長で楽しめるこちらのアートイベント、今回はその見どころをご紹介します。
「リヨン現代美術ビエンナーレ」って?

IAC – Verrière OTIUM4 © Blaise Adilon
ビエンナーレ(Biennale)とは、原意はイタリア語で「2年に一度」「隔年」を意味する言葉で、転じて2年に1度開かれる美術展覧会の名称として広く使われています。2026年9月19日(土)から12月13日(日)まで開催される「リヨン現代美術ビエンナーレ(Biennale d’art contemporain de Lyon)」は、今回で18回目を迎えます。
約3カ月にわたり、リヨンとその周辺の11会場におよそ120組のアーティストによる作品が登場するこちらの展覧会。美術館だけでなく、かつての工場や歴史的な建物、庭園、地下鉄の駅などにも作品が現れ、街を歩くことそのものがアート鑑賞になるのが大きな特徴です。
2026年のテーマは「Passer d’un rêve à l’autre」
18e Biennale d’art contemporain de Lyon, Institut d’art contemporain / Frac Rhônes-Alpes. Katariin Mudist, Solution temporaire, 2026.
Installation : cale-portes, bois, impression vinyle adhésif. Courtesy de l’artiste,
© Adagp, Paris, 2026
今回のテーマは「ある夢から別の夢へ(Passer d’un rêve à l’autre)」。着想源となったのは、リヨンの街に点在する「トラブール(traboule)」です。トラブールは建物の中庭などを通り抜け、通りから通りへと移動できる独特の通路のことで、かつては絹織物職人たちが布を運ぶためにも使われていました。
そんなリヨンならではの抜け道のように、ひとつの場所や価値観から別のものへと移動することで、どんな新しい世界が見えてくるのか。今回のビエンナーレは、そんな問いを投げかけます。
まずは3つのメイン会場へ!
11の会場の中でも中心となるのがレ・グランド・ロコ(Les Grandes Locos)、織物・装飾芸術美術館(Musée des Tissus et des Arts décoratifs)、リヨン現代美術館(macLYON)の3カ所です。
01|Les Grandes Locos――巨大な旧工業施設がアート空間に

Les Grandes Locos © La Biennale de Lyon
まず訪れたいのが、リヨン郊外のラ・ミュラティエール(La Mulatière)にある「レ・グランド・ロコ」。
ここはもともと1846年に操業を始めた工業施設で、その後、SNCF(フランス国鉄)の鉄道車両の整備・修理拠点として2019年まで使われていました。
広大な工場跡地に作品が並ぶため、一般的な美術館とは異なるスケールでアートを鑑賞できます。この会場には、生産、変化、資源、移動、修復など、この場所の歴史と呼応するようなテーマの作品が並びます。
なかでも注目したいのが、フランス人アーティスト、ロール・プルヴォ(Laure Prouvost)です。彼女はターナー賞(イギリスの権威ある現代美術賞)の受賞者で、映像や音、彫刻、テキスタイルを組み合わせた作品で知られ、今回は巨大なクジラを含む没入型のインスタレーションを展開します。作品の中を通り抜ける体験にも注目です。
02|Musée des Tissus――歴史ある空間でアートに浸る
Musee des tissus © Sylvain Pretto
次に向かいたいのが、リヨンの絹織物産業を象徴する「織物・装飾芸術博物館」。現在は改修中のため通常は公開されていませんが、ビエンナーレのために特別に開かれます。
見どころのひとつが、アルチャナ・ハンデ(Archana Hande)の作品。インドのムンバイを拠点に世界的に活動していているアーティストで、かつてジャカード織機で使われていたパンチカードを使い、織物の街・リヨンならではの作品をつくり上げています。
ギリシャ出身のミハイル・カリキス(Mikhail Karikis)は、若者たちの「声」を使った作品を展示。歴史ある空間と現代アートの組み合わせにも注目です。
03|macLYON――人間の存在そのものを見つめる

macLYON – Nina Chanel Abney, Femmes, 2019. La Biennale de Lyon – Art BAC 2019 © Blaise Adilon
リヨン現代美術館では、友人、家族、恋人など人間同士の関係や、生と死、記憶、受け継ぐことなど、より個人的で根源的なテーマに触れる作品が展開されます。
1995年に現在の場所へ移転した美術館は、リヨンの国際都市開発地区「Cité Internationale」に位置し、関西国際空港旅客ターミナルビルやメゾン・エルメス銀座などを手掛けたイタリアの建築家レンゾ・ピアノ(Renzo Piano)による建物も見どころのひとつです。
街なかにも作品が!美術館を出てアートを探そう

Musée des Beaux-Arts
ビエンナーレは美術館の中だけでなく、リヨンの街なかにも作品が登場します。なかでもおすすめしたいのが、リヨン美術館(Musée des Beaux-Arts)の庭園です。ここはかつて修道院の回廊だった庭に、古代彫刻の複製やロダン、ブールデルなどの作品が並ぶ、リヨンでも美しい場所のひとつです。
今回は、スコットランド出身のアーティスト、スーザン・フィリップス(Susan Philipsz)らの作品が登場。フィリップスは音を主要な媒体として、建築や場所の歴史と呼応する作品を制作しています。
今回の作品では、19世紀のリヨンの絹織物職人たちの蜂起に由来する「カニュの歌(Le Chant des Canuts)」などの歌声が庭に響きます。絹織物の街として発展したリヨンの歴史を、耳で感じられる作品です。
このほか、かつて絹織物職人たちが布を運んだクロワ・ルースのトラブール、科学と人類の歴史を扱うコンフリュアンス博物館(Musée des Confluences)や、ベルクール広場近くのブリュキアン財団(Fondation Bullukian)など、さまざまな場所が展示空間になります。
次の作品を探して地図を片手に街を歩くのも、ビエンナーレならではの楽しみ方です。
自分の「夢」を作品にする?参加型企画も
そして、今回ぜひチェックしたいのが、ビエンナーレと並行してリヨンや周辺地域で開催される関連プログラム「Résonance(レゾナンス・共鳴)」です。
美術館の中だけでなく、ギャラリーや文化施設、街の広場などで関連展示やイベントが行われるプログラムで、2026年は参加型の作品も登場します。
なかでも注目なのが、アーティストのイヴ・クップル(Eve Koeppel)による「Planter ses rêves ensemble(ともに夢を植える)」。来場者が自分が望む未来や夢を書いて“夢の箱”に入れるところから作品はスタート。集められた夢は、食べられる紙に手書きで写され、その後、土や植物、虫などへと渡され、庭のなかで別の形へと循環していきます。自分だけの夢を保存するのではなく、誰かに渡し、別のものへと変えていく作品です。
9月19日から12月13日まで、無料で参加できるこちらの企画。期間中には、集めた夢を読み上げ、食べられる紙に書き写して土へ埋めるパフォーマンスも予定されています。
ほかにも、5歳から参加できるワークショップなど、子ども向けのプログラムも用意されているため、家族で訪れる方にもおすすめです。
パリからはどう行く?
リヨンへのアクセスは鉄道が便利で、パリ(Paris)から高速鉄道TGV INOUIを利用して行くことができます。直通列車が多く、時間帯によっては複数の便から選べます。例えばパリ発の場合、所要時間や費用はこのようなイメージです。
・出発駅: パリ・リヨン駅(Gare de Lyon)
・路線: 高速鉄道TGV INOUI
・降車駅: リヨン・パールデュー駅(Gare de Lyon Part-Dieu)
・所要時間: 約2時間
・料金: TGV INOUI 片道約50~100ユーロ(約8,950円~17,900円/1ユーロ=179円)
飛行機ならパリからリヨン・サン=テグジュペリ空港(Aéroport de Lyon-Saint Exupéry)へのアクセスもあります。ただし、パリからなら市中心部へ直接アクセスできるTGVのほうが便利です。
リヨンの街を「別の目」で歩いてみる

Edith Dekyndt, Underground (Le Marais, Val-Saint-Germain),
2022. Cotton canvas, earth, dust.Installation view, Galerie Greta Meert, September 2023.
Courtesy the artist and Galerie GretaMeert. Collection Kunsthalle Bielefeld.
© ADAGP. 18th Biennale de Lyon (2026)
今回のビエンナーレでは、「Passer d’un rêve à l’autre」というタイトルの通り、ひとつの会場から次の会場へ移動するたびに、少しずつ違うリヨンの姿が見えてきます。
チケットは一般(大人)25ユーロ(約4,475円/1ユーロ=179円)、26歳未満18ユーロ(約3,222円/1ユーロ=179円)。15歳未満、アート系学生などは無料です。
2026年の秋、いつもの観光とは少し違う方法で、歴史と美食の街・リヨンを散策してみてはいかがでしょうか。
執筆:hana












