
カルティエ現代美術財団「Exposition Générale」より
photography: ©️Cyril Marcilhacy
例年以上に厳しい熱波が続くパリ。うだるような暑さの街を避けて、ひんやり涼しい美術館でアート鑑賞はいかがでしょうか。こちらの記事では、アートな街・パリで開かれるたくさんの美術展の中からこの夏おすすめの展示を7つお届けします。
前編では日本人アーティストによる霧を使った作品が見られる展覧会や、ターナー賞受賞作家による個展など注目の3つの展示をご紹介しました。こちら。
後編では、印象派の作品が豊富に揃うオルセー美術館(Musée d’Orsay)や、クロード・モネ(Claude Monet)の「睡蓮(Les Nymphéas)」で有名なオランジュリー美術館(Musée de l’Orangerie)、昨年誕生したばかりの美術館、フォンダシオン・カルティエ現代美術財団(Fondation Cartier pour l’art contemporain)で行われる展示など、この夏外せない4つのアート展覧会をお届けします! この記事を読んで、アートさんぽに出かけませんか?
19世紀美術を“働くこと”から読み解く100の作品

オルセー美術館(Musée d’Orsay)で開催されている「仕事の物語を伝える100の作品」(100 œuvres qui racontent le travail)展は、19世紀美術を“労働”という新たな視点から読み解く特別企画です。100点の作品を通して、産業革命によって大きく変化した人間と仕事の関係、そして芸術家たちが描いた「働く人々」の姿を紹介します。
19世紀、機械化の進展や工場制度の広がりによって、社会の仕組みや人々の暮らしは大きく変化しました。本展では、工場で働く労働者、職人、農民、女性や子どもたちなど、さまざまな仕事に携わる人々を描いた絵画や彫刻を通して、近代社会の光と影を映し出します。
芸術家たちは、労働を単なる生産活動としてではなく、人間の暮らしや尊厳、社会の変化を映す重要なテーマとして捉えてきました。産業化による発展の一方で生まれた格差や苦悩、そして働くことの誇りや希望。本展では、1848年から1914年にかけて制作された作品を中心に、当時の人々の生活や価値観を新たな視点から見つめ直します。
仕事とは何か、人はなぜ働くのかという問いは、現代にも通じる普遍的なテーマです。100の作品を通して、過去の労働の風景から、現在の私たちの社会や働き方について考える展覧会です。
キーワード:レアリスム(Réalisme)
19世紀半ばにフランスで生まれた美術運動。神話や理想ではなく、労働者や農民など、当時の人々の日常や社会の現実をありのままに描こうとしました。代表的な画家に、ギュスターヴ・クールベ(Gustave Courbet)やジャン=フランソワ・ミレー(Jean-François Millet)がいます。
展覧会概要
展覧会名:「仕事の物語を伝える100の作品」(100 œuvres qui racontent le travail)
会場:オルセー美術館(Musée d’Orsay)
会期: 開催中〜8月2日
料金:16ユーロ(約2,960円/1ユーロ=約185円)
アクセス:Esplanade Valéry Giscard d’Estaing, 75007 Paris
RER C線 Musée d’Orsay駅より徒歩すぐ
マスキングテープから生まれる、光と記憶の風景画

オランジュリー美術館(Musee de l’Orangerie)で開催されている「Alexandre Lenoir. Par la force des choses(アレクサンドル・ルノワール ― 事物の力によって)」展は、現代美術企画「Contrepoints contemporains(現代美術との対話)」の一環として開催される、画家アレクサンドル・ルノワールの個展です。4点の新作を通して、写真を出発点に生み出される独自の風景画の世界を紹介します。
1992年生まれのルノワールが描くのは、人物が静かに佇む風景や、記憶に残る一瞬を切り取ったような情景です。しかし、彼は写真を忠実に再現するのではなく、自然の力や時間の経過、制作過程に生まれる偶然を取り込みながら、現実と夢の間にあるような絵画へと変化させていきます。鮮やかな光に包まれた風景には、同時に静かな孤独やメランコリーが漂います。
特徴的なのは、マスキングテープを用いた独自の制作技法です。キャンバスに無数のテープを貼り、その上から何層もの絵具を重ねた後、テープを剥がすことでイメージを浮かび上がらせます。隠すことと現れることを繰り返すその過程は、写真の現像にも似た発見の瞬間を生み出します。
本展では、ルノワールが探求する見ることや知覚にも注目します。クロード・モネの《睡蓮》から影響を受けた彼は、絵画を固定されたイメージではなく、光や鑑賞者の視線によって変化する、生きた存在として捉えています。
写実的な風景と実験的な制作プロセスの間から生まれるルノワールの作品。自然、記憶、時間、そして私たちが世界を見るという行為そのものを改めて見つめ直す展覧会です。
キーワード:ペルセプシオン(Perception)
ものを見ること、感じ取ること、知覚することを意味する言葉。現代美術では、作品そのものだけでなく光や空間、鑑賞者の視線によって変化する「見る体験」そのものをテーマにする表現を指します。
展覧会概要
展覧会名:アレクサンドル・ルノワール ― 事物の力によって(Alexandre Lenoir. Par la force des choses)
会場:オランジュリー美術館(Musee de l’Orangerie)
会期:開催中〜8月24日(月)
料金:12.50ユーロ(約2,313円/1ユーロ=約185円)
アクセス:Jardin des Tuilleries 75001 Paris
メトロ1・8・12号線 Concorde駅より徒歩5分
昨年オープンしたばかりの美術館で現代アートに浸る

photography: ©️Cyril Marcilhacy
1984年に設立されたカルティエ現代美術財団(Fondation Cartier pour l’art contemporain)は、アーティストとの協働を通じて、新たな表現を生み出してきた現代アートの重要機関です。
財団は2025年10月、ルーヴル美術館の向かいにあるパレ・ロワイヤル広場に移転。フランス出身の建築家、ジャン・ヌーヴェル(Jean Nouvel)による革新的な建築空間の中で、40年以上にわたる活動を紹介するオープニング企画「Exposition Générale」を開催しています。
可動式プラットフォームによって変化する展示空間では、絵画や彫刻に加え、映像、音楽、ダンス、パフォーマンスなど多彩な表現が可能。ジャンルの境界を越え、現代アートの未来を体験できる新たな文化スポットとして注目を集めています。
キーワード:エクスポジシオン(Exposition)
フランス語で「展覧会」の意味。現代美術では作品を並べるだけでなく、空間全体を演出し、鑑賞体験そのものをデザインする展示も多くなっています。
展覧会概要
展覧会名:エクスポジション・ジェネラル(Exposition Générale)
会場:カルティエ現代美術財団(Fondation Cartier pour l’art contemporain)
会期:開催中〜8月23日(日)
料金:15ユーロ(約2,775円/1ユーロ=約185円)
アクセス:2 place du Palais-Royal, 75001 Paris
メトロ1号線・7号線 Palais Royal – Musée du Louvre駅より徒歩すぐ
20世紀を代表する女性写真家リー・ミラーの大規模回顧展
Photographe inconnu.
Lee Miller avec son appareil lors d’une séance photo Schiaparelli pour Vogue
Musée d’Art Moderne, Paris 1945 © Lee Miller Archives England 2026 All Rights Reserved
パリ市立近代美術館(Musée d’Art Moderne de Paris)で開催されている「リー・ミラー(Lee Miller)」展は、フランスでは約20年ぶりとなる、女性写真家リー・ミラーの回顧展です。約250点の写真作品を通して、モデル、シュルレアリスム芸術家、ファッション写真家、そして第二次世界大戦中の従軍記者として活躍した彼女の多彩な歩みを紹介します。
1907年アメリカ生まれのリー・ミラーは、パリで美術家マン・レイ(Man Ray)と出会い、写真表現の可能性を追求します。独自の技法「ソラリザシオン」の発展にも関わり、その後は雑誌『Vogue』の写真家としてファッションや肖像写真の分野で活躍しました。
本展では、前衛芸術との交流から、戦時下のヨーロッパを記録した従軍写真まで、彼女の人生と作品を紹介します。特に、強制収容所の解放直後や戦場を撮影した写真は、20世紀の歴史を伝える重要な記録として知られています。
芸術とジャーナリズムを横断し、激動の時代を独自の視点で見つめたリー・ミラー。その革新的な表現と知られざる人生に迫る回顧展です。
キーワード:ソラリザシオン(Solarisation)
写真の現像途中で光を当てることで、明暗が反転したような幻想的な効果を生み出す写真技法。リー・ミラーとマン・レイによって芸術表現として発展した。
展覧会概要
展覧会名:Lee Miller(リー・ミラー)
会場:パリ市立近代美術館(Musée d’Art Moderne de Paris)
会期:開催中〜8月2日
料金:無料
アクセス:11 Avenue du Président Wilson, 75116 Paris
メトロ9号線 Alma-Marceau駅またはIéna駅より徒歩5分
まとめ
いかがでしたか?今回の記事では、前後編に分けて、この夏のパリでおすすめのアート展覧会を7つご紹介しました。この季節のパリは観光客も多く、例年注目展示が盛りだくさんです。ぜひお気に入りのアートスポットを見つけて、自分だけのアートさんぽを楽しんでください。
執筆:hana












