アルル(Arles)という地名を聞いたことはありますか?南フランスのプロヴァンス地方にあるこの街は、ポスト印象派の代表的画家であるフィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Willem van Gogh)が過ごした場所として有名です。この街に滞在中、数々の代表作を生み出したゴッホ。作品の舞台となった場所は、現在では世界中からたくさんの人が訪れる観光地となっています。
そんな、アートとも縁の深いアルルの街を舞台に、毎年7月から約3ヶ月間開催されるのが「アルル国際写真祭(Les Rencontres d’Arles / Les Rencontres de la Photographie d’Arles)」。昨今世界中でさまざまなフォトフェスティバルが開催されていますが、その走りとも言われるのがこのイベントです。この記事では、その魅力と楽しみ方をたっぷりお届けします。
アルル国際写真祭(Les Rencontres d’Arles)って?
©Bertien van Manen, Ljalja, Odessa, 1991
Avec l’aimable autorisation de la Fondation Bertien van Manen.
世界最大規模と言われ、多くの写真家や写真好きが集まるアルル国際写真祭。今年は7月6日(月)から10月4日(日)まで開催され、連日さまざまな催しが行われます。展示場所は市内各地おそよ40ヶ所。礼拝堂や12世紀の回廊、19世紀の工業建築物といった歴史的建造物から、モノプリ(Monoprix フランスで有名なスーパー)の店舗といった、現代的で意外な場所まで多岐にわたり、参加者は街全体を巡りながら写真を楽しむことができます。
アルル国際写真祭の歴史
©Paul McCartney, Autoportrait, Londres, 1963
Avec l’aimable autorisation de l’artiste, sous licence exclusive de MPL Archive LLP.
このイベントの始まりは1970年。アルル出身の写真家リュシアン・クレルグ(Lucien Clergue)とフランスを代表する作家ミシェル・トゥルニエ(Michel Tournier)、アルルの文化遺産研究などに深く関わった歴史家ジャン=モーリス・ルケット(Jean-Maurice Rouquette)らによって創設されました。
当時、写真は芸術としての評価が十分でなく、報道や記録の領域に留まっていました。そんな中で彼らは、写真をギャラリーや歴史的遺産で展示する試みを行い、「写真=芸術」という認識を社会に広げる役割を果たしました。1980〜90年代に入ると、世界各国の著名な写真家やキュレーター(展覧会企画者・アート選定の専門家)、出版社が参加するようになり、国際的な写真祭としての存在感がさらに高まります。現在では写真にとどまらず、出版、映像、インスタレーションなど、多彩なアートが一体となったフェスティバルへと進化しています。
アルル国際写真祭の歩き方〈その1〉まずは注目展示へ!
2026年のテーマは「再読する世界(Des mondes à relire)」。このテーマに沿って、既存の写真史・政治史・地域史などを再解釈する展示が多く行われます。今年必見の展示はこちらの3つです。
① 「Ghana! Rêver l’indépendance」
© Paul Strand, Samuel J.K. Essoun, Shama, Ghana, 1964
Avec l’aimable autorisation de Paul Strand Archive et d’Aperture.
1957年にイギリスから独立したガーナ。当時、写真は新たな国家像を伝える重要な手段となり、書籍や雑誌を通じて新しいガーナ像が広がっていきました。この展示では、その歴史と植民地的表象とは異なる視点を提示したポール・ストランド(Paul Strand)らの作品、そして現代の作家の作品を交えて再解釈しています。
② 「This Way to Heaven」
©William Klein, Ali vient de mettre Foreman K.O., Kinshasa, Zaïre, 1974
Avec l’aimable autorisation du Studio William Klein et du William Klein Estate.
今年生誕100年となるアメリカ出身の写真家ウィリアム・クライン(William Klein)の写真を軸に構成される展覧会。クラインは1950年代からニューヨークやローマ、モスクワ、東京など世界各地の都市を撮影し、当時の写真表現としては異例のブレ・歪み・粒子・過密構図を積極的に取り入れたことで知られます。いわゆる美しい写真ではなく、都市の暴力性や速度、混乱をそのまま画面に収めるスタイルは、後のスナップ写真やストリートフォトグラフィーの基礎にもなりました。
③「Being There」
©Lee Shulman et Omar Victor Diop, Being There, 2023
Avec l’aimable autorisation des artistes.
リー・シュルマン(Lee Shulman)とオマール・ヴィクター・ディオプ(Omar Victor Diop)による『Being There』は、1950〜60年代の家族写真に現代アーティストが介入し、“本来そこにいなかった存在”を可視化することで、写真に潜む人種・階級・排除の構造を問い直すシリーズです。幸福な日常を写したアメリカのアーカイブに黒人男性のディオプを合成することで、見えなかった歴史と記憶の欠落を浮かび上がらせ、写真を記録ではなく批評的メディアとして再解釈します。
アルル国際写真祭の歩き方〈その2〉ガイドツアーを活用しよう

7月13日(月)から10月4日(日)までの期間中、毎日公式ガイドツアー(Visites guidées des expositions)が実施されます。チケットを持っていれば誰でも無料&予約不要で参加できるこちらのツアー。1日3回行われ、ガイドとともに3つの展覧会を巡るプログラムとなっています。各時間、それぞれ候補となる複数の展覧会の中から、その日ごとに3つの会場を巡ります。そのため、日にちや時間によって異なる作品に出会えるのも魅力です。
概要
日時 7月13日(月)から10月4日(日)まで毎日 10時、14時半、17時から
参加費 無料
所要時間 約1時間30分
作品の背景や時代性、写真家の狙いまで解説してもらえるため、写真に詳しくない人でも理解が深まるのが嬉しいですよね。どの展示から見るべきか分からない、という人や滞在時間が限られている人には特におすすめです。
アルル国際写真祭の歩き方〈その3〉フォトウォークに参加しよう

フォトウォーク(Les Balades Photographiques)は、写真家でもあるガイドとともに少人数(最大6名)でアルルの街を歩きながら、写真を見る目と撮る感性を養うためのワークショップです。このフォトウォークは、写真を始めたばかりの人や、まだ経験の少ない人を主な対象としており、参加者同士で作品について意見交換をしながら、プロの写真家から撮影のアドバイスを受けることができます。
概要
日時 7月13日(月)から9月2日(水)までの毎週月・水曜日
参加費 58ユーロ(約10,730円/1ユーロ=185円換算)
対象年齢 16歳以上
所要時間 約3時間30分
フォトウォークの流れ
写真祭の展覧会を1つ見学 → 街を歩きながら撮影 → 撮影した写真について参加者同士で講評・意見交換 → プロの写真家の作品を見ながら撮影手法や表現方法を学ぶ
フランス語のみでの実施のため、フランス語を勉強している人にとっては会話を実践するよい機会となりそうです。
チケットやアクセス情報
© Rinko Kawauchi, Sans titre, série As it is [Tel quel], 2020
Avec l’aimable autorisation de l’artiste.
チケット情報
写真祭のチケットは主に3つ。
① All Exhibitions Pass/42ユーロ(約7,770円/1ユーロ=185円換算)
期間中すべての会場に1回ずつ入場可能な全展示パス
② One Day Pass/35ユーロ(約6,475円/1ユーロ=185円換算)
全ての会場に1回ずつ入場可能な1日パス
③Ticket Per Venue/4.5〜15ユーロ(約833円〜約2,775円/1ユーロ=185円換算)
ひと会場のみを訪れることのできるシングルチケット
価格は会場ごとに異なります
18歳未満は無料で、若年層や求職者は割引対象となります。プログラムに含まれるすべての展覧会を楽しむためには3日間の滞在が目安とされているため、数日滞在できる方は全展示パスを購入するのがおすすめです。チケットは現地でも購入できますが、販売の有無は会場によって異なるためオンラインでの事前購入が安心です。
アクセス情報
アルルへのアクセスは鉄道が中心で、パリ(Paris)、マルセイユ(Marseille)、アヴィニョン(Avignon)など各都市から電車で行くことができます。例えばパリ発の場合、所要時間や費用はこのようなイメージです。
・出発駅: パリ・リヨン駅(Gare de Lyon)
・路線: 高速鉄道TGV INOUI ※一部便は乗り換えあり
・降車駅: アルル駅(Gare d’Arles)
・所要時間: 約3時間50分〜4時間30分(直通の場合)
・料金: 片道 約25〜120ユーロ(約4,600円〜22,200円/1ユーロ=185円)
アルル駅から旧市街までは徒歩約10〜15分。写真祭の主要会場も徒歩圏内に集まっているため、到着後は公共交通機関を使わずとも展示を巡ることができます。公式ホームページや公式アプリでは「家族連れにおすすめのルート(Parcours adapté pour des visites en famille)」や「車いす・移動に配慮したルート(Parcours Mobilité Réduite)」などのモデルコース、「冷房のある会場(Lieux climatisés)」などのリストが用意されているため、ぜひ、自分に合ったルートを検索してみてください。
約3ヶ月と長期に渡り開催されるフォトフェスティバル。今年の夏はアルルで写真を楽しんでみてはいかがでしょうか。
執筆:hana












