フランスの南西地方は、現在のヌーヴェル=アキテーヌ(Nouvelle-Aquitaine)とオクシタニー(Occitanie)にまたがり、ボルドー地方の東からピレネー山脈(Pyrénées)の麓まで、多様な気候と文化を持つ地域です。
この地方はひとつの大きなワイン産地というよりも、異なるおもむきを持つ小さな産地が点在しているのが特徴です。ひとくちに南西地方といっても、まるで別々の地域を旅しているような多様性に満ちているのです。今回は、フランス南西地方のワインについてお話しします。
複数の顔を持つワイン産地
南西地方のワイン生産地は、東西南北に広く分散しています。
この地方にはフランス第4の都市トゥールーズ(Toulouse)があります。その北にフロントン(Fronton)やガイヤック(Gaillac)、さらに北にカオール(Cahors)といったワイン産地が位置しています。また南西方面のピレネー山脈近くには、マディラン(Madiran)やジュランソン(Jurançon)、バスク地方のイルレギ(Irouléguy)などの産地があります。
大西洋から湿った空気が届く地域もあれば、内陸の乾燥した地域、ピレネーから吹く暖かい南風の影響を受ける地域もあります。土壌もさまざまで、同じ「南西地方」という名前でまとめるには驚くほど風景が異なります。
川と巡礼路がつないだ歴史
この地方の歴史を語るうえで欠かせないのが、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路(Chemins de Saint-Jacques-de-Compostelle)です。
中世に多くの巡礼者がフランス各地から現在のスペインへ向かい、南西地方には彼らを受け入れる修道院や宿が発達しました。修道院ではブドウ畑が開かれ、ワイン造りの技術も受け継がれていきます。
そしてもう一つ重要だったのが、川。
カオールやガイヤックといった内陸のワイン産地は、それぞれロット川(Lot)やタルン川(Tarn)を通じワインや物資を輸送してきました。またこれらの川はボルドーを流れ太平洋にそそぐガロンヌ川に合流し、畑を形づくるだけでなく人や商品を外の世界へつなぐ役割を果たしてきました。
南西ワインの特徴 知らないブドウに出会う楽しみ
南西地方の大きな魅力は、その土地固有のブドウ品種の多様性にあります。
中でも有名なのが、カオールのマルベック(Malbec)。カオールでは古くから「黒ワイン」と呼ばれるほど色の濃く、しっかりとした渋みのある赤ワインが造られてきました。
また、ピレネー山麓のマディランでは、タナ(Tannat)が主役です。赤ワインがもつ渋み(タンニン)を豊富に持つ品種で、黒い果実や胡椒、甘草などを思わせる力強い赤ワインになります。
白ワインでは、ピレネー山麓で栽培されるグロ・マンサン(Gros Manseng)やプティ・マンサン(Petit Manseng)が代表的です。また、ガイヤックでは、モーザック(Mauzac)という白ブドウから、メトード・アンセストラル(Méthode Ancestrale)と呼ばれる古い製法で発泡ワインが造られます。これは発酵が終わる前に瓶詰めし、発酵時にできる炭酸ガスを閉じ込める方法で、糖分を加えて二次発酵させるシャンパーニュ方式とは異なります。
地元料理とのペアリング

南西地方を代表する料理といえば、白インゲン豆に鴨や豚肉、ソーセージなどをじっくり煮込み、オーブンで焼き上げるカスレ(Cassoulet)です。もしトゥールーズ周辺で本場のカスレを味わう機会があれば、近郊のフロントンの赤を合わせてみるのもおすすめ。この土地固有の品種ネグレット(Négrette)の果実や花を思わせる香りが、肉と豆を使った豊かな料理に軽やかさを添えます。

鴨のコンフィ(Confit de canard)には、カオールのマルベックを。鴨の脂や香ばしく焼かれた皮に、マルベックの黒い果実の風味やしっかりした渋みがよく合います。料理だけ、ワインだけで味わうと力強く感じても、一緒にするとお互いの味がなじんでいきます。

そして、南西地方を代表する食材の一つ、フォアグラ(Foie gras)には、ぜひジュランソンの甘口白を。甘口ワインと聞くとデザート用と思われるかもしれませんが、ワインの甘みと酸が、フォアグラの塩味や濃厚な脂とよく合います。
南西地方のおすすめポイント
ガイヤック・ワイン館 (Maison des Vins de Gaillac)
ガイヤック・ワイン館 (Maison des Vins de Gaillac)は10世紀創建のサン=ミシェル修道院(Abbaye Saint-Michel)の中にあります。ここでは100種類を超えるワインが紹介され、辛口白、赤、甘口、発泡性まで、ガイヤックの多彩なスタイルを一か所で知ることができます。
トゥールーズのブドウ収穫祭(Fête des Vendanges Toulouse)
南西地方の都市部に滞在しながらこの地のワインを楽しみたいなら、トゥールーズがおすすめです。秋の収穫期には、中心部にあるキャピトル広場でブドウ収穫祭(Fête des Vendanges)が開催され、南西地方の生産者のワインを味わえます。
終わりに
南西地方のワインには、ボルドーのような分かりやすいイメージはありません。しかし、その曖昧さの中にこそ、この土地が育んできた多様性と奥行きがあります。
一杯のワインが伝える南西地方の物語を手がかりに、フランスの地方文化をより深く知る旅へと踏み出してみてはいかがでしょうか。
執筆 Quiyo(キヨ)












