フランスに住んでみて、些細なことですが、自由な国民だとふと思うときがあります。昼間から、週末は午前中からビールを飲んだり、歌いながら仕事をしたり… etc. 本当に「自由」という言葉がぴったりな国だと思います。「自由・平等・博愛」というフランス共和国の標語のうちの一つでもありますね。
そんな『自由』(Liberté ton NOM)という題名の詩で有名な詩人ポール・エリュアールと、この詩のことを紹介したいと思います。
詩人エリュアールと詩「自由」
パリの郊外サンドニで生まれたポール・エリュアール。サンドニには彼の作品を多く展示しているMusée d’art et d’histoire de Saint-Denis があります。
これは修道院を改装した美術館で、郊外にあるため人も少なく落ち着いていて、ゆっくり見学することができます。館内には彼の作品の原本などが多く展示してあります。彼と仲が良かったピカソの作品も何点かあり、興味深かったです。
『自由』 (訳:Saori)
学校のノートの上に
教室机と木の上に
砂の上 雪の上に
君の名前を書く
読んだページの上に
白いページの上に
石 血 紙 灰の上に
君の名前を書く
・・・
夜ごとの不思議の上に
日々の白のパンの上に
愛を誓う季節の上に
君の名前を書く
・・・
雲の泡の上に
雷の上に
どゃ降りで退屈な雨の上に
君の名前を書く
・・・
きらめく形の上に
様々な色の鐘の上に
自然界の真実の上に
君の名前を書く
灯るランプの上に
消えるランプの上に
一つに集まる私の家の上に
君の名前を書く
・・・
食いしん坊でやさしい僕の犬の上に
訓練された彼の耳の上に
不器用な彼の足の上に
君の名前を書く
・・・
望みのない不在の上に
むき出しの孤独の上に
死の進行の上に
君の名前を書く
取り戻した健康の上に
消えた危険の上に
記憶のない希望の上に
君の名前を書く
言葉の力によって
僕は人生をやり直す
僕は君を知るために生まれた
君を名付けるために
自由と
当初は女性の名前になるはずだった
上の訳は全部ではありません、部分部分省略していますが、自然界の雲や砂の上に書いたり、自分を取り巻くさまざまな物の上に名前を書いていきます。
恋人の名前だろうと想像して読み進めると、その名前は恋人の名前ではなく、自由。実際当初は好きな女性の名で締めくくろうとしたそうですが、ふと自由にしようと思い立ったそう。1914年ドイツにの占領下であった当時に彼が求めていたものは、自由だったのですね。
シンプルさが心に響く
シュールレアリスムの活動をしていた彼ですが、その後の詩はとてもシンプル。長い詩ですが、このシンプルさが心に響き残ります。
自由ってなに?
昨年(2015年)の1月7日の新聞社を狙ったテロの後のこと。表現の自由を象徴するために、国立近代美術館の入るポンピドゥーセンター(正式名称:Centre national d’art et de culture Georges-Pompidou/ジョルジュ・ポンピドゥー国立美術文化センター)に、フェルマン・レジェーのイラストを伴ったLiberté ton NOM の言葉が掲げられたのも印象的でした。
戦争や紛争のない平和な国に暮らしていて自由なはずの私たちですが、社会に束縛されがちになってしまっては自由でないのかなと考えたり…。自由の精神が根付いているフランス人に「自由って何?」と聞いてみたくなりました。
エリュアール本人による朗読の音声
https://www.youtube.com/watch?v=6Gi2S6oIbI4
執筆 Saori